2ヶ月の赤ちゃんとのコミュニケーション

生まれたばかりの赤ちゃんはただ泣いているだけで、ママやパパが話す言葉は伝わっていないと思いますか?

実は誕生直後から、赤ちゃんは会話をするママたちに反応し、赤ちゃん自身も喋ろうとする意志を表していると言います。

今回は、生まれ持った赤ちゃんのコミュニケーション能力についてお話したいと思います。

目次

1.生まれながらに『心』がある赤ちゃん

2.新生児期の特殊能力『無様式知覚』

3.プレスピーチ

1.生まれながらに『心』がある赤ちゃん

言葉を話せるようになる前の赤ちゃんはこの世界をどのように見て、どのように感じているのでしょうか。

ハンガリー生まれの精神分析家であるマーラーは、生まれてから2ヶ月までの赤ちゃんはまだ自分と外界の区別がなく、「母親と自分は一体だと感じている」と述べました。

しかし、ドイツの心理学者であるスターンは、乳幼児の観察をしていく中で、赤ちゃんは生まれた時から既に一人の人間として『心』を育み始めていると、マーラーの理論に反論しました。

生後数週間の時点で、物(ぬいぐるみなど)に対する赤ちゃんの反応(表情や声、手の動きなど)と、人の顔を見ている時の反応が違うと言うのです。

そのことから生後数週間の赤ちゃんでさえも、既に物と人の顔を見分けていることがわかりました。

2.新生児期の特殊能力『無様式知覚』

私たち大人は、視覚は目で、聴覚は耳で、触覚は手などの皮膚感覚で、この世界をとらえています。

しかし、赤ちゃんはそれぞれの機能が未熟なために、独立して機能されておらず、すべての感覚がつながってこの世界をとらえているようです。

例えば、目で見ていなくても、触覚で感じた物はまるで見たかのようにわかっていると言います。

スターンはこの時期にのみ備わっているこの“特殊能力”のことを『無様式知覚』と名付けました。

赤ちゃんは生後3週目にはこの能力を発揮していることから、生まれ持った能力だと言えるでしょう。

そして生後6週目には、赤ちゃんは話しかけてくれる大人の顔をしっかり見るようになります。赤ちゃんは耳でその声(言葉)を聞いているだけでなく、目で口の動きを見て、“言葉を聞いている”ようです。

そのため、聞こえてくる声(言葉)と口の動きが異なる…という実験を行ったところ、赤ちゃんは困惑した反応を示したと言います。

赤ちゃんは生まれた瞬間から体のすべての感覚を総動員して、自分の周りの世界を理解しようとしているのですね。

3.プレスピーチ

生後8週頃(2ヶ月)になると、大きな成長の変化を感じるようになります。

目と目を合わせるようになったり、人の話に反応して笑うようになったり、「アウアウ」「クウー」と言うようになったり…。

ママやパパたち大人が舌を出して見せると、真似をして赤ちゃんも舌を出すなど、大人の口の動きを真似するようになるのもこの時期です。

そして、あたかもお話をしているかのように、赤ちゃん自身が口や舌を動かし始めます。声は出ていなくても、大人が行うジェスチャーのように手を振る動きも見られます。

エジンバラ大学の児童心理学者であるトレヴァーセンは、この赤ちゃんの行動を『プレスピーチ』だと呼びました。

赤ちゃんが泣いたり、ぐずったりすると、ママやパパたちは抱っこして揺らしてみたり、背中をトントンとたたいたり、「よしよし、どうしたの」と泣き声に応答して声をかけたり、赤ちゃんをなだめようとする行動をするでしょう。

また、機嫌よく起きていて「アー、ウー」など声を発している赤ちゃんには、赤ちゃんの声を真似してみたり、歌を歌ってあげたり、おもちゃを見せてみたり、赤ちゃんとの触れ合いを楽しむことでしょう。

このように、赤ちゃんの泣き声や手足の動きに対して、ママやパパが話しかけたり、触れ合ったり、応答してあげることによって、赤ちゃんは言葉の発声や発音を学び、言葉を育んでいきます。

言葉を話せるようになるのは1歳を過ぎてからですが、コミュニケーションの基盤は生まれた時から備わっています。

そして、生後2ヶ月までの間にママやパパとやりとりする一つ一つの過程によって、コミュニケーションの土台は作られていくのですね。

また、赤ちゃんはママやパパの表情や声、動きから、ママたちの感情・気持ちを敏感に読み取ることができます。

ママたちがニコニコと笑顔で赤ちゃんに話しかけている場合、赤ちゃんもニコニコ嬉しそうに笑っています。

しかし、『母親は無表情で接する』という実験を行ったところ、赤ちゃんは困惑した反応を示し、最初は一生懸命笑いかけたり、手足を動かしてママの注意を引こうと努力します。しかしそれでもママが笑顔になってくれないとわかると、強い不安とストレスに耐えられなくなり、大泣きし始めるのです。

言葉を話すようになる前の赤ちゃんでも、ママやパパの表情を見て、気持ちを察するという『心』が備わっているのですね。

初めての子育ての場合は特に、赤ちゃんがなぜ泣いているのかわからなかったり、不安になることも多いと思います。

しかし、赤ちゃんもこの世の中に生まれ、初めての体験ばかり。

ママとパパのぬくもりや眼差し、話しかけてくれる声、微笑みの表情など、一つ一つの積み重ねを経て、少しずつ心を育んでいきます。

そしてママやパパも同じように、赤ちゃんを抱っこした時のぬくもりや赤ちゃんの眼差し、ふっと見せてくれる笑顔、アウアウというご機嫌な声だけでなく、「お願いだから泣きやんで」と思いたくなるような泣き声も含めて、赤ちゃんの一つ一つの反応を受け止めながら、少しずつ母親と父親になっていくのではないでしょうか。

『完璧な育児』や『上手な対応』でなくても良いのです。赤ちゃんの様子を見守り、その反応を穏やかな気持ちで受け止めてあげることが、何より大切なのだと思います。

言葉が生まれる前の赤ちゃんとのコミュニケーションを楽しく育んでいただけたらと願っています。

参考・引用文献

『母子臨床の精神力動 精神分析・発達心理学から子育て支援へ』ジョーン・ラファエル・レフ編

木部則夫雄管訳・長沼佐代子・長尾牧子・坂井直子・金沢聡子訳

岩崎学術出版社

『乳幼児の対人世界』D.Nスターン著 小此木啓吾・丸田俊彦監訳

神庭靖子・神庭重信訳