赤ちゃんの能力ってすごい! ~聞く能力~

前回のコラム『赤ちゃんの能力ってすごい!~見る能力~』では、赤ちゃんの視力に焦点を当てましたが、今回は赤ちゃんの聴覚に焦点を当て、生まれた時から備わっている「聞く能力」についてお話したいと思います。

目次
1.いつから聞こえている?
2.母語(日本語)を聞き取る力
3.外国語を聞き取る力
4.成長を促すために大切なこと

1.いつから聞こえている?

赤ちゃんはいつ頃から外界の音や声が聞こえているのでしょうか?

赤ちゃんの聴覚は視覚と比べると早く発達し、お母さんの子宮の中にいる胎児の時から様々な音を聞き取っていると言います。

妊娠25週目ぐらいには耳が機能し始め、お母さんの心臓の音や腸の動きなど『胎内母体音』を聞いています。また、お母さんの声は外からだけでなく、体の振動を通して胎児に伝わっているため、他の外界音に比べてより強く響いているようです。

そのため、赤ちゃんは子宮の中でお母さんの声を記憶し、生まれてすぐにお母さんと他の人の声を聞き分けることができると言われています。

胎児の時、お父さんの声はお母さんの声よりも耳に届きにくいものですが、お母さんのお腹に顔を近づけて、大きな声で話しかけてみてください。

埼玉大学の志村洋子先生によると、毎日お腹に近い所で太鼓をたたいて合図してから「元気ですか?」など語りかけていたお父さんには、分娩室で生まれた瞬間、赤ちゃんが他の人とは異なる反応を示した…という事例があったそうです。志村先生は「この人がお父さんだとわかっているんだなって感動した」と言います。

妊娠して6ヵ月が過ぎると、赤ちゃんはもう耳が聞こえています。お父さんもお母さんもぜひお腹の中の赤ちゃんにたくさん語りかけてみてくださいね。

2.母語(日本語)を聞きとる力

赤ちゃんは生まれた時からお母さんの声を聞き分けることができていますが、その音声だけでなく、お母さんが話す言葉『母語』にも注意を向けています。

そのため、親の母語が違う赤ちゃん、つまり国が異なる赤ちゃんは生まれた時から母語の影響を受けて、泣き声のイントネーションも異なっていると言います。

また、言葉には名詞や動詞のように意味を持つ『内容語』と、代名詞(これ、あなた)や助詞(~が、~を)などの『機能語』がありますが、赤ちゃんは生後1~3日にしてその違いを区別して聞き取っているそうです。この能力はどの国の新生児にも見られることから、学習して得た能力ではなく、人間の生まれ持った能力ではないかと思われています。

そして6~8ヵ月頃になると、頻繁に聞く単語は、長い文章の中から切りだして聞こえるようになります。

例えば赤ちゃんがバナナを見ている時に「バナナおいしいね」「バナナ食べる?」「バナナを買ってきたよ」など話しかけてあげると、『バナナ』という単語の音だけが耳に残り、目の前に見えるバナナと結びついて、「これはバナナなんだ」と言葉を覚えるようになります。

また、赤ちゃんに対しては「うさぎちゃん」「くまちゃん」など単語の後に「ちゃん」をあえて付けたり、「くつ」「てて」など単語の前に「お」をあえて付けて話すことも多いかと思います。

お母さんやお父さんは赤ちゃんと話している時、自然とそのように話しているのではないかと思いますが、実は赤ちゃんにとっては「ちゃん」や「お」が単語を聞き取りだす手がかりになっているのです。

さらに「ネンネ」や「クック」「マンマ」など赤ちゃんに向けて使う『育児語』も赤ちゃんにとって聞き取りやすく、覚えやすいリズムパターンなのだと言います。

赤ちゃんが言葉を話せるようになるのは通常1歳を超えてからですが、言葉を聞きとる能力は生まれた時から備わっています。そして様々な手がかりをもとに、赤ちゃんはどんどん言葉を覚え、話せるようになるのですね。

3.外国語を聞き取る力

子どもには早い段階から英語を学ばせたいと考えているお母さんやお父さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

では、いつから外国語を学ぶのがよいのでしょう。

日本語には約20個の音韻が存在します。一方英語は30を超える数の音韻が存在しており、その種類も日本語とは異なっています。例えば子音の「r」と「l」は日本語では区別しない音韻のため、英語のヒアリングが難しいと言われがちです。

では、なぜ英語を母語としている人たちにとっては簡単に聞き分けられる音韻を、私たち日本人は聞き分けることが難しいのでしょうか。

世界には約800個の音韻が存在すると言われていますが、私たち人間は生まれた時にはどのような言語でも母語として聞き取れるように、ほぼすべての音韻を聞き分けられる能力を備えているそうです。

しかし生後半年から1年までの間に、母語以外の音韻を聞き分ける能力が急激に低下していきます。

「せっかくある能力が消えてしまうなんて、もったいない」と思われるかもしれませんが、母語にとって必要な能力だけが残ることによって、母語が話せるようになるのです。

そのため、まずは母語である日本語をしっかり聞き取り、話せるようになることが大切だと思います。

京都大学の呉東進先生も「外国語に触れさせるのは、日本語をある程度マスターした三歳以降の方がいいと思う」と話されています。

4.成長を促すために大切なこと

生まれてから1年の間にどんどん言葉を学んでいく赤ちゃんですが、単に言葉を浴びるように聞かせればよいというわけではありません。

Kuhlの研究によると、英語を母語とする9ヵ月の赤ちゃんにテレビやCDで中国語を聞かせたところ、中国語を聞き分ける能力はまったく育たなかったが、同じ時間だけ直接赤ちゃんに中国語で語りかけ続けたところ、中国人の赤ちゃんと同等の能力を獲得した、という結果が出たそうです。

赤ちゃんが興味のない言葉を一方的に聞かせても無意味ですが、赤ちゃんがその時興味深く見ている物や動きに対して一緒に反応し、直接コミュニケーションをとることが大事なのですね。

また、赤ちゃんは大人の歌声が大好きですが、大人がどのように歌っているのかも敏感に聞き分けることができると言います。

Trainorは6ヵ月の赤ちゃんに、赤ちゃんを目の前にして歌っている歌と、赤ちゃんがいない状況で歌っている歌を両方聞かせるという実験を行ってみました。すると、目の前の赤ちゃんに対して歌ってあげた『愛情のこもった歌声』の方を、赤ちゃんはより好んで聞いていたことがわかりました。

『赤ちゃんへの愛情のこもった歌声』は、赤ちゃんの注意を引きつけ、情緒を安定させる効果があります。さらに、メロディーをつけた単語は赤ちゃんにとって覚えやすいことから、言葉の学習を促す効果もあると言います。

生まれてから1年間、赤ちゃんは泣いてばかり・・・と思われがちですが、周囲の大人が愛情をこめて関わっていく中で、赤ちゃんは生まれ持った能力を最大限発揮し、言葉を話せるようになっていきます。

ぜひ赤ちゃんが何に興味を持っているのか気付き、一緒に楽しんだり、喜んだりしながらたくさん話しかけてあげてくださいね。

引用・参考文献

『乳幼児心理学』 麦谷綾子 放送大学

『胎児から三歳児の聴力解剖 赤ん坊だって、親の言葉を感じている』呉東進 志村洋子今井和子 馬塚れい子    Babyプレジデント2011.7.15号