赤ちゃんの能力ってすごい! ~見る能力~

赤ちゃんは歩くことも、話すこともできない。生まれたばかりの赤ちゃんは何 もできない。そう思っている人もいるかもしれません。
しかし、赤ちゃんは生まれながらにして、素晴らしい能力を備えています。今 回は赤ちゃんの「目」に着目し、生まれた時から備わっている「見る能力」とは どのようなものなのか、そして赤ちゃんの「見る能力」を伸ばすために私たち大 人はどのように触れ合うとよいのか、お話したいと思います。

目次
1.赤ちゃんの視力
2.赤ちゃんは「人の顔」が好き
3.人見知りは認知能力の成長の証
4.赤ちゃんは人の視線に敏感
5.表情を読み取る力

1.赤ちゃんの視力

赤ちゃんの視力は大人と比べてどうでしょうか。 生まれたばかりの赤ちゃんの視力は、大人の視力に換算すると 0.02 ほどしかあ
りません。
生後3ヶ月には 0.1 に、6ヶ月後には 0.2 まで見えるようになりますが、大人
の 0.1 や 0.2 の見え方とは違うそうです。赤ちゃんの場合は大人のように近眼で 見えないのではなく、大脳皮質がまだ未発達のため見えません。そのため、たとえ近い物でも霧がかったように薄ぼんやりとした世界に見えているのです。

だから淡いパターンや薄い色合いはまだ見えず、はっきりした色合いの縞模様 や水玉模様など特徴的な色や形を好んで見ると言います。

2.赤ちゃんは「人の顔」が好き

視力はまだ未発達の赤ちゃんですが、心理学者 Fantz の研究によると生まれて
46 時間後には「人の顔」と他の物を区別することができ、赤ちゃんは「人の顔」をより好んで見続けるそうです。
生まれて一度も顔を見たことがない新生児でも「人の顔」に注目すると言いま す。まだ「顔」を「人」だと認識しているわけではないそうですが、生まれなが らにして「人の顔」を好む力があるというのは、人間の社会で生きるための力を 本能的に備えていると言えるでしょう。

ただ、中央大学教授の山口真美先生らと生理学研究所が共同で行った研究によ ると、5ヶ月の赤ちゃんは正面の顔は「顔」だとわかるものの、横顔を「顔」だ とはまだ認識できないそうです。正面顔も横顔も「顔」だとわかるようになるのは8ヶ月になってからです。

せっかく赤ちゃんと触れ合っていても、横を向いていては「顔」だとわかって もらえない可能性もあります。赤ちゃんと遊ぶ時には目と目を合わせて、正面から向き合うとよいでしょう。

3.人見知りは認知能力の成長の証

7ヶ月以降になると人見知りをする赤ちゃんも多くなります。お母さんや常に 赤ちゃんの側にいる人以外の人が抱っこをしようとすると大泣きされ、困ってし まうという時期でもあるかもしれません。
しかし、それは顔を見て、誰だかわかるようになったということです。

一人一人顔が違うのだとわかるようになるためには、目や口の形の違いだけでなく、目鼻口が顔の中のどの位置にあるのか等、全体的に顔を把握する認知能力が必要になります。つまり、赤ちゃんは生後7ヶ月にして、大人と同じくらいの
能力を備え、人の顔を認識できるようになるのです。
人見知りが出てきたら、ぜひ「おめでとう」と赤ちゃんの成長を喜んであげた いものですね。

4.赤ちゃんは人の視線に敏感

顔の中でも特に重要な情報は目、つまり視線から得られます。相手が何を見て
いるのか、その視線の方向に気づくことができれば、さまざまな情報を得ること ができるようになります。
赤ちゃんは生まれて間もない頃から視線に敏感です。Batki らの研究により、

目を閉じた顔や自分を見ていない顔よりも、自分を見てくれている顔の方を赤ち
ゃんは好んで見つめ、その顔を覚えるようになる
と言われています。 相手が自分を見つめ、自分も相手を見つめる。お互いに見つめ合うという行為
(相互注視)がコミュニケーションの始まりです。

5.表情を読み取る力

赤ちゃんは「動き」にも敏感で、動いている物に注目します。じっと動かず無
表情に赤ちゃんを見つめているよりも、『マザリーズ』という赤ちゃん言葉を使っ て話しかけたり、“いないいないばあ”をしたり、動きや表情をつけた方が赤ちゃ んはより注目してくれます。
そして、毎日さまざまな人と触れ合ったり、さまざまな表情を見ていく中で、 赤ちゃんは人の表情を学習し、6,7ヶ月頃になると、笑った顔や怒った顔など表情の区別ができるようになります。
さらに10ヶ月頃になると、表情の意味がわかるようになるのです。


まだ言葉はしっかり理解していない時期ですが、お母さんやお父さん、自分の側にいてくれる人たちがどんな気持ちなのか、その表情を通して赤ちゃんには伝わっていると言えます。 お母さんが嬉しい時には赤ちゃんにもその嬉しさが伝わっており、悲しい気持
ちやイライラした気持ちも伝わっていきます。赤ちゃんはお母さんの表情や反応 を見て、自分がどうすればいいのか(笑うのか、泣くのか、怒るのか)判断し、 行動するようになるのです。
だからこそ、赤ちゃんと多くの時間をともに過ごしているお母さん自身がリラ ックスしていること、楽しい気持ちで育児をしていることが、赤ちゃんにとって も大切になります。
『母親の顔は赤ちゃんにとって特別』だと山口先生は語っています。

 

お母さんが自分らしく、穏やかな気持ちで赤ちゃんと向き合えるためには『頑
張りすぎないこと』がとても重要だと思います。
7ヶ月以降になると、人見知りになったり、離乳食を食べてくれなかったり、 それまで夜寝てくれていた赤ちゃんが夜泣きをするようになったり…。新生児の 頃とはまた違う大変さを感じることがあるかもしれません。また、赤ちゃんのた めにやってあげたいこと、しなきゃいけないと思っていることがたくさんあるか もしれません。
でも赤ちゃんにとっては、お母さんが元気でいてくれること、そして笑顔で自 分を見つめてくれることが何よりの幸せ・・・なのではないでしょうか。
どうか頑張りすぎず、無理しすぎず、赤ちゃんとお母さんが笑顔で暮らせるこ とを願っています。

引用・参考文献
『乳幼児は顔を区別する』山口真美 心理学ワールド90号 『赤ちゃんはお母さんの顔が一番好き?』山口真美 WorMo’ こどもの可能性を 拡げる情報 2015.2.20
『乳幼児心理学』山口真美 金沢創 放送大学