子どもは一人では生きられません。大人が見守り、世話をすることが必要です。そんな子どもにとって、子ども虐待(児童虐待)は、本当に深刻な問題です。子どもたちが安心して生きられるように、虐待から子どもを守ることは、国や公共団体だけでなく、私たちみんなにとってしなくてはならないことの一つです。
ところが、何が虐待なのかについては、難しい問題が山積みです。「あまりに聞き分けがないので、お尻を叩きました」:これは虐待でしょうか。 「大事なことを一生懸命に話しているのに、『どうしてわからないの!』と少し強く肩をつかんで揺さぶりました」:これは虐待でしょうか。どちらも子どものためを想ってしたことで、傷つける気持ちなんて全くありません。でも・・・子どもはどう感じたでしょう?
虐待は法律で罰せられる行為です。虐待を疑った時には通報することも必要です。なので、何が虐待で、何が虐待でないのか、しっかりとわかっていないとなりません。でも、虐待かどうかの判断は、なかなか簡単なことではありません。今回は、法律を中心に虐待の定義について一緒に考えてみたいと思います。
1.子ども虐待とは?
2.虐待の4タイプ
3.新しい法律と考え方
1 子ども虐待とは?
はじめに、子ども虐待が法律でどのように定義されているかについて説明します。法律なので難しい言葉もありますが、ちょっと我慢してください。 児童虐待防止法第2条で、「子ども虐待とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護する者)がその監護する児童(18歳に満たない者)に対して行う行為」として定義されています。ここで大事なことは、虐待は、子どもを育てる責任のある人が、その子どもに対して行うことだということです。見知らぬ人が子どもを殴ったような場合は、即座に暴行罪になるので、虐待かどうかなどと悩む必要はありません。問題なのは、親などの子育てをしている人が子どもに厳しくしすぎた場合です。
長い間、親の権利として、子どものために、親は子どもを「監護・教育」することができ、それに対して必要な範囲内で子どもを「懲戒(ちょうかい:意味=こらしめる)」することができると、法律に書かれていました。つまり子どものために、子どもを罰することが親の責任として認められていたのです。なので、子どもに対する暴力という、見知らぬ他人だったら逮捕されるような罪でも、親は子どもの「しつけ」という特別な責任が考慮されて罪にはならなかったのです。
それが、2年前の2022年12月、子育てに関して大きな法律の改正がありました。親が子どもを「懲戒できる」という条文が削除されたのです。そして、「子どもの人格を尊重して、その年齢や発達の程度に配慮すること、体罰など子どもの心身に有害な影響を与えることをすることはできない」という内容に変わりました。しつけのためであっても暴力は許されないと、はっきりと規定されました。これはとても大きな変更です。親は「しつけだから」という気持ちで、子どもを叩いたりすることは、もうできないのです。
2 虐待の4タイプ
では次に、虐待とはどんな行為なのか、法律は具体的にどう書いているのでしょうか。
児童虐待防止法では、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待と、4つに分類されていますので、それぞれについてみてみましょう。
①身体的虐待とは、殴る、蹴る、水風呂や熱湯の風呂に沈める、ベランダに放置する、異物を飲み込ませる、厳冬期などに戸外に閉め出すなど、子どもの身体を傷つける行為です。過激なのですぐにわかる行為もありますが、軽い罰など判断が難しい場合もあります。
②性的虐待には、子どもとの性交や、性的な行為の強要、子どもに性器や性交を見せる、などがあります。乳幼児が被害にあっていることもあります。また、女性が加害者の虐待もあります。
③心理的虐待は、大声や脅しなどで怯えさせる、「産まなければよかった」など拒否的な態度をとる、無視する、著しくきょうだいと差別をする、そんな子どもの心をひどく傷つける行いです。子どもが父母のドメスティック・バイオレンスを目撃することも含まれます。
④ネグレクトは、子どもを家に放置する、食事を与えない、衣服を着替えさせない、登校禁止にして家に閉じこめる、子どもを無視して欲求に応えない、などです。育児知識の不足からミルクの量が不適切だったり、病気なのに病院に連れて行かない、なども含まれます。
法律としてはきちんと分類されていますが、実際にはいろいろなタイプの虐待が入り混じっている場合がほとんどです。次は、ある女の子の例ですが、4つのタイプの虐待のうち、性的虐待以外、全部を経験していました。―私が虐待されだしたのは、5歳のとき、妹が生まれた頃でした。母は「あぁ、子どもなんか産むんじゃなかった」とよく言っていました。私がちょっとでもごはんをこぼすとすごく怒り、怖くて私が泣くと、ウルサイと言って叩かれました。母が疲れている時には、ご飯をくれないこともありました。お腹がペコペコで何でもいいから食べたいと思いました。父と母はよくケンカをして、父は母を蹴ったり殴ったりしていました。私は両親のケンカを見るのが一番嫌でした。
3 新しい法律と考え方
大事なことは、新たな法律に書かれている「子どもの人格を尊重して」、「年齢や発達の程度に配慮する」というポイントです。まず、子どもは世話をしている大人とは別の人格なので、子ども自身の気持ちや考えを認めることです。つまり、大人の考えを押しつけないということです。そして子どもの現在の状態をしっかりとわかっていること。子どもの行為は年齢的または発達的には自然なことではないかと気づいたり、それに対する大人の考えは子どもの年齢・発達を考えて適当な内容かと考えることです。そのうえで、子どもに有害なこと(ひどく傷つくこと)をしてはいけない、というのです。
してはいけないことを具体的に挙げるのは、子どもと大人との関係性や子どもの個性などいろいろと違いがあるので難しいのですが、一番大切なことは世話をする大人と子どもとの信頼関係がしっかりしていることだと思います。それを基盤にして、個別に考えていくことが必要だと思います。
5回にわたって、子どもの虐待についてお伝えしようと思います。第1回は「オレンジリボン・キャンペーン」(2024年11月)、第2回「虐待ってなに?」(この回です)、 第3回「昔の子どもたちは・・」、第4回「児童虐待の現状」、そして最後の第5回「体罰のない子育て」と続く予定です。