2015年に厚生労働省が『妊娠・出産包括支援事業』を発表してから7年。現在では各自治体が産前・産後サポートの重要性を感じ、様々な支援が実施されるようになりました。
今回は多くの市区町村で行われている産前・産後サポート事業と提携している(社)ドゥーラ協会認定の産後ドゥーラについてお話したいと思います。
2.日本の『産後ドゥーラ』とは?
1.アメリカの『Doula(ドゥーラ)』とは?
『Doula』とは、もともとギリシャ語で『女性を援助する女性』という意味がありますが、現在では『妊娠、出産、育児を援助する女性』のことを言います。
アメリカでは1800年代には医療施設で出産することが主流となり、助産師という存在は衰退していきました。
そのため、出産時に医師や看護師が継続的に付き添うことは少なく、妊産婦は陣痛中一人で孤独に過ごさなければならなくなってしまいました。また、帝王切開や無痛分娩が増えたり、ほとんどの女性が母乳育児をやめて人工ミルクで育てるようになったそうです。
しかし1970年代頃には、過剰な医療介入に対して疑問が上がるようになり、自然分娩を求める声が高まっていきました。
それとともに、分娩中に妊産婦に寄り添う『Doula(ドゥーラ)』という存在が誕生したのです。
『分娩期ドゥーラ』は陣痛が始まると、女性の腰のあたりを撫でながら
「大丈夫、大丈夫。そのうちすぐ痛くなくなりますよ。もうすぐかわいい赤ちゃんが生まれますよ」
など、優しく声をかけて励まします。
このように妊婦を励ましたり、情報提供を行うなどの『エモーショナル・サポート(精神的支援)』が分娩時にあることによって、
① 陣痛時の痛みの感じ方が和らいだ
② 不安が軽減された
③ 出産を自分でコントロールできたと感じられる感覚が高まった
など、結果的に『満足度の高い分娩体験になった』という効果が多く報告されるようになりました。
また、「陣痛時間が短くなった」「帝王切開率や仮死状態の出産率が低くなった」「大量出血のような妊娠合併症の頻度が減った」などの研究結果もあります。
現在アメリカでは、病院のサービスの一環としてドゥーラケアが設置されていたり、全米各地に地域密着型のドゥーラ事務所が設置されています。また、“プライベートドゥーラ”として個人的に活動しているなど、様々な形態で活動しているようです。
2.日本の『産後ドゥーラ』とは?
日本ではかつて産婆制度があり、妊娠、出産の時期には“お産婆さん”が妊産婦に寄り添ってくれていました。そして現在では、助産師という国家資格があります。日本の助産師は妊娠、出産時にエモーショナル・サポートを行う存在でもあります。
そのため、アメリカにおける『分娩期ドゥーラ』という存在は必要ないものとされてきました。
しかし、核家族化や高齢出産の増加、産後うつ病や児童虐待など様々な問題が社会的に増加してゆく中、東京都助産師会会長の宗祥子先生は
「出産した後、自宅に帰ってからのサポートがない方が増えてきた。しかし、退院後も助産師が関われることは限られている」
と、母親たちの帰宅後の生活を心配するようになったと言います。
そこで2012年に一般社団法人ドゥーラ協会を発足し、産前および産後に妊産婦のご自宅でサポートを行う『産後ドゥーラ』が日本で誕生しました。
産前産後は、妊娠・出産による身体の変化だけでなく、ホルモンバランスも急激に変化するため、精神的にも不安定になりがちです。
そのため、産後ドゥーラは母親の身体が回復し、心理的にも安定するよう母親の気持ちに寄り添いつつ、赤ちゃんとの新しい生活をスムーズに送れるよう家事や育児のサポートを行います。
現在は、北海道から九州の31都道府県で700人以上の(社)ドゥーラ協会認定産後ドゥーラが活動しています。
それぞれ個人事業主として活動しているため、活動時間やサポート料金などはドゥーラによって異なります。
また、自治体と提携し、助成金や補助金によって安く利用できる地域も年々増えています。
【産後ドゥーラを助成金や補助金で利用できる自治体】
◆東京都中野区・港区・杉並区・江東区・北区・世田谷区・新宿区・品川区・目黒区・文京区・大田区・葛飾区・八王子市・
府中市・調布市・日野市
◆神奈川県横浜市・川崎市・足柄下郡箱根町
◆静岡県三島市・菊川市 ◆千葉県千葉市・市川市・流山市
◆栃木県栃木市 ◆茨城県かすみがうら市
◆宮城県仙台市 ◆奈良県磯城郡田原本町
◆島根県出雲市 ◆熊本県玉名郡玉東町
(2022年12月時点)
産後、家族の支援がない方や里帰りする予定のない方、父親が忙しくて母親と赤ちゃんだけで過ごす時間が長い方などは、産前のうちから産後の生活をどのように過ごすか考えておくとよいでしょう。
母親一人で頑張ろうとせず、「手が足りないな。サポートがあると安心だな」と思われたら、気軽に産後サポートをご利用ください。
参考・引用文献
「ドゥーラーその役割と実践―」 岸利江子 チャイルドリサーチネット・ドゥーラ研究室(2005年)