初めて妊娠したら夫婦で取り組んでほしいこと ②

前回のコラム『初めて妊娠したら夫婦で取り組んでほしいこと①』では、睡眠と生活リズムを整えることの大切さをお伝えしました。そこで今回は、妊娠期から産後にかけて大切な『食生活』についてお話したいと思います。

目次
1.近年の女性の食生活
2.理想的な食事バランス
3.食生活を変えられない時の工夫

1.近年の女性の食生活

食事は、子どもから大人までどの時期においても大切なもの。

『食育』という言葉が広く知られるようになり、望ましい食習慣を身に付けられるよう家庭や学校で取り組むようになってきました。

しかしその一方で、若い世代ではダイエットによる栄養摂取不足が問題となっています。

厚生労働省の国民健康・栄養調査報告によると、BMI(体格の指標)で「やせ」の女性が増えていると共に、「やせ」ているにも関わらず、なお体重を減らそうとダイエットを続ける女性たちは20歳代では30%近く、30歳代では15%以上いるそうです。

2000年に定められた「健康日本21」では「適正体重」の人を増やそうという目標が立てられましたが、2018年時点まだ目標数に達することができていません。

「やせ」志向は妊娠する前の時期だけではなく、現在は妊娠中も太りたくないという妊婦が増加しています。

しかし妊娠中の適切な体重増加は、女性自身のためにも、健康な赤ちゃんの出産のためにも必要なことです。

妊婦の体重が適切に増えることによって、お腹の中の赤ちゃんも大きく成長することができるのです。

体重増加が少ない妊婦では、低出生体重児(2500g未満で生まれる赤ちゃん)の出生率が高まると言われています。

またDavit Barker教授らによると、子宮の中での栄養環境は胎児期だけではなく、生まれた後も将来に渡って影響を及ぼし、成人期に糖尿病や高脂血症、高血圧、がん、メタボリックシンドローム様症状などが発症するリスクが高まるという調査結果が出ています。

健康な赤ちゃんを産むために、そして自分自身も健康に暮らしていくために、バランスの良い食事をしっかりとるように心がけましょう。

ただし、これらの発症の原因がすべて胎児期の栄養環境にあるというわけではなく、あくまでも発症を高めるリスク要因の一つです。

つわりなどで食べられない時には、赤ちゃんの成長について不安に思うあまり、無理して食べようとする必要はありません。

また、しっかり食べているのに体重が増えない場合には、ご不安なことや心配事が原因となっていることもあります。そんな時はパートナーやご家族、助産師や保健師などに話を聴いてもらい、一人で抱え込まないようにしましょう。自分にとってリラックスできる環境の中でゆっくり過ごすことが大事です。

2.理想的な食事バランス

理想的な食事は、①主食 ②主菜 ③副菜を、1日3回(朝食・昼食・夕食)バランスよく食べることです。

①主食:ごはん・パン・麺類などの炭水化物。生きるエネルギー源となる。

ダイエットの時には全く食べない、あるいは減量することの多い食材  だと思いますが、妊娠中や授乳中には必要なエネルギー量が増加します。適量をしっかり食べるようにしましょう。

②主菜:肉・魚・卵・大豆・大豆製品など、たんぱく質を多く含む食材を使った料理。

肌や髪の毛、爪、筋肉や臓器などを作るために欠かせない重要な栄養素で、体の15~20%はたんぱく質で作られています。

また、ホルモンや酵素、免疫物質を作るためにも必要な栄養素です。

一度にたくさん食べても全ての栄養素が使われるわけではないため、こまめに3食バランスよく食べることが大事です。

③副菜:野菜や芋類、豆類、きのこ、海藻などを主材料とする料理。

野菜に含まれるビタミンやミネラル、食物繊維などは得てして不足しがちですが、とても大切な栄養素です。

ほうれん草小松菜かぼちゃブロッコリーなどの緑黄色野菜、体

を温めてくれる蓮根ごぼう人参、大根などの根菜類ぜひ意識的に摂るようにしましょう。

また、母乳は血液からできていますので、おいしい母乳を作り、乳腺炎や授乳時の痛みを軽減させるためには、油物や糖分の多いメニューを控えた方がよいと言われています。

野菜をたっぷり使った和食がお勧めです。

 

3.食生活を変えられない時の工夫

毎日3食バランスよくしっかり食べることが大切。

そうわかっていたとしても、様々な理由でできない場合もあるでしょう。

保健師である横山芳子教授らが保健指導のために行った調査によると、妊娠中に食事指導を行った後も食生活を変えることができなかった理由として、以下の

3つが挙げられています。

①「つわりで食べられなかった」

妊娠初期はつわりで思うように食べられなくなることが多いかと思います。また妊娠中期、後期までつわりが長く続く場合も少なくありません。

そんな時は「ちゃんと食べなきゃ」と焦る必要はありません。

妊娠前とは味覚が変わることがあります。また、妊婦同士でも「おいしい!」と感じる食材は人によって異なります。

無理をせず、自分が食べられる物を食べられる時に食べるようにしましょう。

また、つらい時期が長く続く場合には、遠慮せずにかかりつけ医や助産師、保健師に相談することも大事です。

②「夫の好みを優先した」

夫が好む料理を作ってあげたい、一緒に食事を楽しみたいと思う気持ちは誰しもあることだと思います。

また、女性自身が洋食など“コッテリした味付け”を好むこともあるでしょう。

好みや食習慣を変えることは大変なことだと思います。

特に「これを食べてはいけない」と思うと余計に食べたくなり、ストレスが溜まっていきます。

人は「してはいけない」と思えば思うほど「したくなる」ものです。

「コッテリしたものを食べてはいけない」と思うのではなく、

「体に良いメニューであり、かつ夫婦にとって好きな物を1つずつ増やしていこう」と心がけてみましょう。

1品ずつ増やした結果、気付いた時には『体に良くておいしい料理』だけが食卓の上に並べられている・・・ようになるかもしれません。

また、同じメニューでも調理方法を変えることでヘルシーになります。

例えば「唐揚げをどうしても食べたい!」という時には、油で揚げるのではなく、オーブンで焼くという方法に変えてみましょう。満足度は変わらず、余分な脂質を抑えることができます。

食事は楽しむことも大事!

ご夫婦で楽しみながら、健康と好みを両立できる献立作りを考えてみてください。

③「時間がなくて手料理が作れなかった」「面倒だった」

調理する時間がない。調理すること自体が嫌い、面倒。そういうケースも多いでしょう。

特につわりの時期は匂いにも敏感になり、調理することがつらくなりがちです。

また産後は、夜間授乳のために睡眠不足になることが多く、体がまだ回復していない中育児の合間に調理することは大変なことです。

「赤ちゃんがずっと泣き止まなくて、食事をとることができなかった」という声をよく聞きますが、

調査によると子育て中の母親の15.7%が「欠食している」、20%が「規則正しい食生活をしていない」と答えています。

このような場合には、夫の協力が必要です。

妊娠期から夫が調理を担当できるように話し合っておくとよいでしょう。

これまで調理経験が少ない男性の場合、主菜・副菜をそれぞれたくさん作ることは大変なことかもしれません。

そんな時、筆者のお勧めメニューは“具だくさんお味噌汁”の『豚汁』です。

たんぱく質である豚肉、人参・ごぼう・大根などの根菜類、その他お好みで家にある緑黄色野菜やきのこ類などを入れて煮込めば、必要な栄養素を1品で摂取することができます。

時間がない、作るのが大変…そんな時は「今日は豚汁と白米だけでOK!」と割り切ってもよいのではないでしょうか。

食事は毎日のことです。

毎日の食事作りが負担にならないように、工夫しましょう。

また、ご夫婦で工夫を重ねてみても家事が大変な場合には、ヘルパーなど外部のサポートを利用してみましょう。

地域によって自治体が実施しているサービスや民間の家事代行サービスなど様々な種類があります。

例えば東京都品川区では、生後1歳まで認定産後ドゥーラによる家事・育児支援サービスを利用することができ、サービス利用料の一部(1時間につき2,700円)が助成されます。

また、神奈川県横浜市では『産前産後ヘルパー派遣事業』、川崎市では『産前・産後家庭支援ヘルパー派遣事業』を行っており、複数の認定事業者の中から希望する事業者を選び、妊娠期から家事や育児の支援サービスを利用することができます。

自治体が行っているサービスは利用可能期間や利用回数などが制限されていますが、安価な料金で利用できるというメリットがあります。

一方民間のサービスは利用条件などの制限が少ないというメリットがありますが、利用料金が自治体に比べて高いというデメリットがあります。

それぞれのメリット・デメリットを検討しながら、ぜひご自分の希望に合ったサービスを利用してみてください。

妊娠中にバランスのとれた食事をしっかり摂ることは、妊婦と赤ちゃんの健康にとって大事なことです。

また、産後の体の回復を促すだけでなく、おいしい母乳が作られ、母乳育児が楽になります。

実は母乳育児は『最高のダイエット』と言われています。

母乳の栄養分は血液中に溶け出した皮下脂肪であり、赤ちゃんに母乳をあげると、母親の皮下脂肪を血液中に溶かす作用のホルモンが分泌されます。

そのため「授乳中は食べた物すべてが母乳となって赤ちゃんが飲んでくれるのでは」と思えるほど、あまり太らないと言います。

さらに妊娠中に習慣づけられた健康的な食事作りは、その後の離乳食作り、子どもの食事作りにもつながっていきます。

妊娠期だけでなく、将来に渡って家族全員が健康に暮らしていけるために、

ご夫婦で協力し合い、ぜひバランスのよい食事作りを心がけてみてください。

参考・引用文献

「妊娠中の食事指導による食生活の変化と出産後の食生活」横山芳子 杉浦惠子 松本短期大学研究紀要

「妊産婦および小児における食生活の現状と課題」吉池信男 日本食生活学会誌Vol.24 No.4(2014)

「妊産婦のための食事バランスガイド」厚生労働省

「おっぱい先生の母乳育児「超」入門」平田喜代美 東洋経済新報社