春の揺れ動く心に寄り添うかかわり

日本には、四季があります。

春・夏・秋・冬、それぞれの四季の変化は、私たちに自然の営みの豊かさや儚さ、そして逞しさを感じさせてくれます。

心理学者のダニエル・J・レビンソンは、人生を四季に当てはめ、人間の発達段階を4つに分け、心が安定した「安定期」と各段階の境目の「過渡期」を繰り返しながら発達すると考えました。

春に向けて気温が周期的に変化する様を、三寒四温と言いますね。

季節の移り変わりが行きつ戻りつ少しずつ進むように、私たち人間もまた、人生を行きつ戻りつ、環境の変化に対応しながら発達しているのですね。

そんな繊細さと逞しさを持つ私たち人間が、1年の中で一番大きな環境変化に立ち向かう季節が「春」です。

そこで今回は、「春の揺れ動く心」について、お話しようと思います。

目次

1. 環境変化と心
2. 不安を乗り越える力
3. 安全基地としての保育者

1.環境変化と心

春は、入園や入学、進級、職場の異動など、環境に大きな変化が生まれやすい季節です。

大人も子どもも、なんとなく気持ちが落ち着かず、忙しい時期でもあります。

成熟した大人でも情緒が不安定になる時期ですから、成長発達過程にある小さな子どもたちは、尚のこと不安定になることでしょう。

人間は社会的な動物ですから、人的環境からさまざまな影響を受けます。

心理学者のブロンフェンブレンナーは、個人の発達を取り巻く生態学的システムを4つに分類し、個人とその個人を取り巻く環境との相互作用を通じて人間の発達が進むという、生態学的システム理論を提唱しました。

私たち人間は、自らが環境に影響を与える一方で、環境からも影響を受けながら生活し発達していくのですね。

大人も子どもも環境の変化を感じやすいこの時期は、自分を取り巻くさまざまな環境からの影響をよく理解した上で、子どもに丁寧に関わる必要があるでしょう。

2.不安を乗り越える力

ドキドキする場面、たとえば初対面の人と会ったり、初めての環境に飛び込む時、私たちが感じる不安や緊張は、誰もが持つ感情の1つです。「正常な反応」なので、原因がなくなれば自然に消失しますし、多くの場合、多少緊張しながらも、自分なりに乗り越えることができます。

ストレスに対応しながら乗り越える力を「レジリエンスといいます。

もともとは「跳ね返り、弾力性」と訳される物理学用語なのですが、心理学では、人間の内側に存在する自然回復力を表します。

つまり、「適度なストレス」は、危険を察知する力や問題を解決するための行動力にもつながる、私たち人間が逞しく生きていくために必要な要素でもあるのです。

特に不安になる必要のない場面で過剰に不安や緊張を覚えたり、それによって日常生活がうまくいかなくなっている場合は、「不安障害」というこころの病気になっている可能性がありますので、注意して観察していく必要があります。

「不安障害」にはさまざまな種類がありますが、10~20代に多い代表的な不安障害を参考までに載せておきます。

社会不安障害:「社会恐怖」とも呼ばれる恐怖症の1つで、人前で注目を浴びるかもしれない状況や、恥ずかしい思いをするかもしれない自分の行動に対して、強い恐怖を感じたり、そのために学校の活動や友人との付き合いがうまくいかない。

パニック障害:突然、心臓がドキドキして、吐き気やめまいが起こり、「死ぬのではないか」という恐怖を覚える「パニック発作」を繰り返し起こす病気。「また発作が起こるかもしれない」という恐怖から外出できなくなったりする。

強迫性障害:自分でもおかしいことだとわかっていても、そのことが頭から離れず、何かに駆り立てられるように何度も同じ確認などを繰り返すなどの「脅迫行為」によって、日常生活にも影響が出る。

全般性不安障害:それほど強くない不安が慢性的に続く状態のこと(特定の場面や物に対してではなく、学校での成績や仕事のことなど、いろいろなことに対して過剰な不安と心配を感じたり、その心配を自分でコントロールするのが難しい)。

上記以外にも、子ども特有の不安障害に、親や愛着のある人から引き離されることへの強い不安を示す「分離不安障害」があります。

「分離不安」自体は正常な反応ですが、それがとても強い不安につながる場合は、注意深く見守りましょう

保育者は、精神科医や心理士ではありません。

「この子はきっと不安障害の○○だ」と決めつけるのではなく、子どもの姿を観察しながら温かなかかわりを心がけ、必要であれば精神科や心療内科につなぐという、専門職としての意識を持っておきましょう。

3.安全基地としての保育者

レビンソンは、人生を四季になぞらえて4つの段階【児童期と青年期(0-22歳)、成人前期(17-45歳)、中年期(40-65歳)、老年期(60歳-)】に分けました。

そして、それらの発達過程の移行期間を「過渡期(安定の基盤となる、生活構造を修正しなければならなくなる時期)」と考え、この時期は「転機(トランジション)」であると考えました。

人生という大きな視点で考えても、人間にとって安定の基盤がいかに重要か、不安定な期間をどう乗り切るかがポイントになるのですね。

人間の持つ「レジリエンス」を十分に発揮するためには、周囲のサポートや見守りが必要です。

子どもに大きな変化が伴う時期は、観察と見守りを丁寧に、子どもから発せられるサインを見逃さないようにしましょう。

保育園に行き渋ったり、甘えたりなど、いつもと違う様子がみられたら、焦らずゆったりと向き合いましょう。

少しでも緊張感を解きほぐせるよう、生活や遊びにゆとりを持たせ、子どもの話をゆっくり聞く時間をとると良いですね。

保育者は子どもにとっての「安全基地」です。

保育者との信頼関係が安定した園生活の土台となるよう、子どもが安心できるかかわりを目指しましょう。

また、春は保護者の方も勤務先の環境変化を経験することが多く、兄弟姉妹がいる場合はそれぞれの園・学校生活の変化に対応しなければならず、家族全員が落ち着かない時期でもあります。

保護者の方に対し、子どもに安心感を与えるかかわりをアドバイスすることは、保護者支援につながります

「子どもが不安を強く感じている場面では、『大丈夫?』と確認をするのではなく、『大丈夫よ』と安心感を与える声掛けをすると良いですよ」など、子育てパートナーとして、具体的にアドバイスをすると保護者の方にも喜ばれるでしょう。

「春」が訪れると、花は美しく咲き、虫たちも元気に活動し始めます。

新生活のスタート。大人も子どもも、ワクワクした気持ちを大切に過ごしていきたいですね。