知って得する!心理士がひも解く!子どもの本からのメッセージ! ~「モモ」2~

前回コラムで「モモ」を通して、時間についての考え方や、アクティブラーニングについてお伝えしました。

今回は、「モモ」からカウンセリングのテクニックを学んで、聞き上手になりましょう。

目次
1:モモに見えるカウンセリングスキル

2:モモを通して伝えたいメッセージ5選!

3:さいごに

1:モモに見えるカウンセリングスキル

主人公モモは、ある日突然街に現れた孤児の女の子です。“どこのだれかわからない”モモを、街の人たちは受け入れていきます。そして、モモの面倒を見ていく中で、モモの人間性に触れていき、いつの間にか街の人たちにとってかけがえのない存在になっていきます。さて、なぜモモが街の人に受け入れられ、愛されるようになったのでしょうか。保守的な街にとって、新しい住人が受け入れられることは、容易ではないはずです。とても美しい容姿だからでも、人のご機嫌をとるのが上手でも、とても勉強ができるわけでもありません。モモは、ごく普通の女の子です。モモが街の人々に受け入れられるには、秘密がありました。それは、優秀なカウンセラーとしての素質を持っていたということです。

キーワード1☆聴く力があったこと

モモの聴く力について本の中で何箇所かに分かれて書かれています。

☆小さなモモにできたこと、それはほかでもありません。相手の話を聞くことでした。なあんだ、そんなこと、とみなさんは言うでしょうね。話を聞くなんて、誰にだってできるじゃないかって。でも、それは間違いです。本当に聞くことができる人は、めったにいないものです。そしてこのてんでモモは、それこそほかにはれいのないすばらしい才能をもっていたのです。  (「モモ」2章より引用)

聴くということは、カウンセリングの基礎です。「傾聴力」「聞く力」というキーワードで、書籍もたくさん出ています。カウンセリングは、「悩みの解決方法を教える仕事」「心をいい方向に導いてくれる」ようなイメージを持つ方もいらっしゃると思いますが、”解決する事”‘導く事”がカウンセリングの中核ではありません。カウンセリングは、「一緒に考え、整理をしていくもの」です。そのためには、まず!カウンセリングは、聴く力がないと成り立ちませんどんなに素晴らしい知識があったとしても、まずは、「相手を知ること」これができなければ、ズレが生じてしまいます。聴くことは、コミュニケーションの基本でもあります。

「コミュニケーションが苦手!」という人には、知ってほしい!

×コミュニケション=自分の意見を言える力

○コミュニケーション=相手の意見を聞ける力

と思ってみてください!

自分の意見を言う力もとても重要ですが、まずは、聞き上手を目指してみてください。

「相手が何を話しているのか」わかれば、グンとコミュニケーションスキルは上がります。

モモは、自分のことは多くは語りません。でも不思議なことに、街の人とのコミュニケーションを通して、自然とモモ自身の考え方、生き方に触れる事ができます。

キーワード2:質問しすぎない

☆モモにはなしを聞いてもらっていると、ばかな人にもきゅうにまともな考えが浮かんできます。モモがそういう考えをひきだすようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。ただじっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです。(「モモ」2章より引用)

読むたびに感銘を受けてしまう文章です。この「ただ黙って相手の話を聞く」姿勢は、意外と難しいものです。前回のコラムのアクティブラーニングでご説明した「多くの意見を聞きながら、最後は自分で考え、自分で選択する行動を取る」というのは、“相手と対等の位置”で向き合うために、とても必要な姿勢です。話し手には、話し手の考えや人生観があります。これが正しいかどうかを判断するために、聞き手(カウンセラー)がいるのではありません。街の人達がモモに多くの相談をするようになったのは“対等であり”“受け止めてくれる”そんなシンプルですが、“きちんと相手にわかるように向き合う姿”に惹かれていったのではないでしょうか。

さて、相手から情報を聞くために、みなさんどうしますか?

「質問を投げかけ、答えてもらう」「ある程度、こちらで答えやすいように持っていく」「ヒントを出す」など様々な心遣いが思いつくかと思います。今日は、モモから学びを1つ加えてみましょう。それは、「“この人なりの考えがある”、“この人の人生観を教えてもらう”と考え、こちらが質問しすぎず、まずは注意深く聞く姿勢をとる」というものです。ぜひ、使ってみてはいかがでしょうか。

2:モモを通して伝えたいメッセージ5選

「モモ」にはほかにも素敵なメッセージが多くありますので、5選紹介したいと思います。

1つ目のメッセージ:「まるで謎解き!あなたはこの意味を解読できますか?」

☆時間をはかるのにはカレンダーや時計がありますが、はかってみたところであまり意味はありません。というのは、だれでも知っているとおり、その時間にはどんなことがあったかによって、わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、ほんの一瞬と思えることもあるからです。なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人のいのちは心を住みかとしているからです。(「モモ」6章より引用)

2つ目のメッセージ:「あなたは、言葉がきちんと届く話し方をしていますか?」

☆話す声は聞こえるし、言葉は聞こえるのですが、話す人の心の声は聞こえないのです。(「モモ」7章より引用)

3つ目のメッセージ:「自分の生きている“時”を考えさせられる一言。あなたは自分の時間を心で感じられていますか?」

☆時計というのはね、人間ひとりひとりの胸のなかにあるものを、きわめて不完全ながらもまねて象ったものなのだ。光を見るために、目があり、音を聞くためには耳があるのとおんなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。(「モモ」12章より引用)

4つ目のメッセージ:「食事の味がわかる生活をしていますか?生活習慣も大切に」

☆うしろの人波がモモを押しだしました。モモは機械的に動いてテーブルのところまで行き、おなじように機械的に3回目の食事を口につめこみました。でもまるでボール紙か、かんなくずでも食べているようで、のみくだすのは並たいていではありません。すんだときには、胸がむかむかしてきました。(「モモ」14章より引用)

5つ目のメッセージ:「今を生きる価値を感じられますか?」

☆人間というのは、ただの時間だけでできているのではなく、それいじょうのものだ。(「モモ」19章より引用)

ここでは、5選紹介させていただきました。「モモ」には、哲学的な問いかけや、メッセージが多く隠れています。他にも、読む人によって心に響くメッセージが多くあるかと思います。文章で気になる箇所は、今の自分に必要なキーワードであることが多くあります。人間の脳は、気になるものに注意が引っかかるようになっている特徴があります。そんな脳の仕組みからも、本を読む楽しさを更に見つけてみるのもいいかもしれません。

3:さいごに

2回にわたって児童文学「モモ」をご紹介してきました。改めて、児童書や絵本の魅力を少しでも感じてもらえれば嬉しいです。

子どもの時期は、“人間形成”“人格形成”の時期といわれています。そんな貴重な時期に、子どもの身近にある“絵本”や“児童書”は、多くの大切なものが含まれている魅力的なものです。また、絵本や児童書は、大人と子どもが一緒に過ごせるツールでもあります。是非、「自分の声で聴かせたいメッセージはどれかな?」「こんな気持ちや力が育ってほしいな」「今、こういう世界が好きだから、思う存分楽しませてあげよう!」など、お子様の本選びには思いを込め…そして、大人が絵本や児童書を手に取るときは、“昔の自分と対話をするように”“忘れてしまった大切なものに気が付くようなつもり”でページをめくってみるのはいかがでしょうか。

引用参考文献
・モモ ミヒャエル・エンデ作 大島かおり翻訳 岩波書店