アロマザリングのすすめ

『アロマザリング(allomothering)』とは、母親以外の人が子育てをすることを言います。

赤ちゃんが生まれたら、母親だけでなく、父親や祖父母、兄姉など家族みんなで育てようという意味が込められています。

さらに家族内だけでなく、友達や保育士、ベビーシッター、産後ドゥーラ、子育て支援センターのスタッフ・保健師など家族以外の人たちによる関わりも『アロマザリング』に含まれます。

今回は“母親だけではなく、みんなで子育てをする”アロマザリングのメリットについてお伝えしたいと思います。

目次
1.父親の関わり方
2.三歳児神話とボウルヴィの愛着理論
3.アロマザリングの歴史
4.アロマザリングのすすめ

1.父親の関わり方

“母親以外による子育て”である『アロマザリング』の担い手として真っ先に思い浮かぶのは父親だと思います。イクメンという言葉もすっかり定着してきたようにも感じますが、2020年度の父親の育児休業取得率は12.7%。そして取得期間は5日間未満が28.3%。

この結果をどう思われますか?

前年度は7.5%であり、長年低迷していた父親育休率が初めて10%を超えたため、2020年度は飛躍的に増加したと言われています。

しかし母親の育児休業取得率は81.6%であることと比較すると、まだまだ低いとも言えるのではないでしょうか。

また、母親の多くは約1年間取得するのに対し、父親の多くは5日間未満しか取得できずにいます。

一日に父親が子どもと一緒に過ごす時間を他国と比較してみても日本は圧倒的に短く、“子育ては母親が行うもの”という風潮が日本ではいまだ強くあるようです。

国立女性教育会館が行った調査によると、育児時間の長短だけでなく、育児の内容も父親と母親では異なっている…という結果があります。

多くの父親は子どもと一緒に食事をしたり、話をするなど、同じ空間にいたら必然的に起こる関わりが中心となっており、「子どもに何かを教える」「子どもを見守る」など子どものために能動的に時間を割く必要のある行動は少ないそうです。

家族心理学研究の平山順子先生が4~6歳児を持つ母親を対象に行った調査によると、「父親の育児関与は趣味的・受動的な特質を持っている」と述べています。

2.三歳児神話とボウルヴィの愛着理

それでは、母親の意識はどうでしょうか?

“3歳までは母親の手で育てた方がよい”と考える『三歳児神話』が今でも日本では根強く残っており、母親自身も「保育園に預けることに罪悪感がある」と感じる方が少なくないようです。

女性も男性も「子育ては母親の方が向いている」と思い、育児の責任を母親一人で背負い込んでしまう傾向があると言えます。

では、なぜこのように考えるようになったのでしょうか?

これにはボウルヴィの愛着理論が大きく影響しています。

ボウルヴィは「愛着とは乳児が生きるため、そして安心感を得るために、養育者(通常は母親)に対して保護や援助を求めること」と定義しています。

そして、乳児期に養育者(通常は母親)との間に形成された愛着の質は生涯続く…と「幼児期決定説」を唱えたのです。

この理論は高度経済成長期以降「男性は仕事、女性は家で家事・育児を」という社会の制度や政策に合致し、私たちの考え方に浸透していきました。そして「子どもが健やかに成長するためには、母親が育てた方がよい」と思いこむようになってしまったのだと思います。

しかし現在では、ボウルヴィの愛着理論は様々な研究によって反論されています。

まず、乳児が向ける愛着は母親一人だけではないということがわかってきました。

子どもは生まれた時から、母親だけでなく、父親や兄姉、祖父母、保育士など複数の人たちと関わる能力を持っており、たくさんの人たちと交流しながら生きています。

そのため、たとえ母親とは愛着形成ができていなくても、父親との間で愛着がしっかり形成できている子どももいますし、母親と祖父と保育士など複数の人に対して同時に愛着形成ができることもあります。

また、子どもは単に「生きるための安心感」だけを求めているわけではありません。

楽しく遊んでくれる人、叱ってくれる人、教えてくれる人、一緒にいたずらしてくれる人、そして自分もまた誰かに優しくしてあげたいという気持ち・・・など様々な要求を持っています。それらすべての要求を母親一人が受け止められるわけもありません。

たくさんの人たちが子どもと関わることで、子どもが求めている様々な要求や思いを満たしてあげるということが大事なのではないでしょうか。

そして子ども自身も様々な人たちと関わる中で社会性が育ち、自立心が芽生えていくのです。

3.アロマザリングの歴史

日本の歴史を振り返ってみると、アロマザリングが当たり前の時代の方が長かったようです。

江戸時代の武家では、跡継ぎとなる長男のしつけや教育は父親の役割でしたし、奉公人やその子どもも同居し、ともに子どもたちを育てていました。また、農民の場合は村の共同体の力が強く、村全体で協力しあいながら子育てをしていたと言います。

また、岐阜県にある白川村では、一軒の家に40~50人もの家族が住んでいたという時代がありました。母親たちが農作業で出かけている間は大きな縁側に赤ちゃんが7~8人寝ており、一人の母親が帰ってくると、自分の子どもだけではなく、みんなの子どもにも授乳をしていたそうです。農作業で忙しい時期にもみんなで支えあい、“母親一人で子どもを育てなければならない”ということにはなりませんでした。

また、新島ではかつて「モリッコ」という習俗があり、島で赤ちゃんが生まれると、近隣の少女の中からモリッコと呼ばれる子守が選ばれていました。モリッコは子守として赤ちゃんのお世話をするだけでなく、お互いに成人しても家族ぐるみの深い交際を続けていたそうです。

4.アロマザリングのすすめ

核家族が増えた現代、家の中で一日中母親と子どもの二人だけで過ごすことが多いという家庭が増えていきました。

泣き続ける赤ちゃんをずっと抱っこし、ご飯を食べることも、トイレに行くことすら我慢してしまう母親たちもいます。ゆっくり眠ることもできず、睡眠不足で疲労困憊の母親たちもいます。社会とのつながりがなくなったように感じ、孤独に打ちのめされている母親たちもいます。

そんな思いを抱えている方は「母親の私が頑張らなければ」と、一人で背負い込もうとしないでほしいと願っています。

まずはパートナーである父親と話し合ってみませんか?

祖父母に協力をお願いしてみるのもよいかもしれません。

あるいは、産後ドゥーラやベビーシッターなど家族以外のアロマザリングを利用してみてはいかがでしょうか?

誰と一緒に子育てすればよいかわからない…という場合には、地域の子育て支援センターや子ども家庭支援センターの方にご相談してみるのもよいと思います。

子どもはみんなで育ててよいのです。

来年の4月から「育児・介護休業法」が改正され、男性の育休がより取得されやすくなります。父親が子育てに関わる時間や内容がより良い形に変わることを期待しています。

しかし、男性の育休率が上がればよいというわけでもないと思っています。

育休中、父親と母親の2人だけが子育ての負担を背負わずにすむように・・・。

父親と母親の2人ともが社会とのつながりが切れたように感じ、不安感を募らせないように・・・。

父親が育休を取得している期間でも、様々な人たちが関わり続けることが大切だと思います。

母親も父親も、そして子どもたちみんなが幸せに暮らせるように、アロマザリングが当たり前の社会になることを心から願っています。

 

引用・参考文献

「ヒトの子育ての進化と文化 アロマザリングの役割を考える」根ケ山光一・柏木惠子編著 有斐閣