こんにちは。対人関係療法を専門にカウンセリングを行っています、島崎です。
今回は臨床心理士の筆者が心がけている“園児の保護者対応”をまとめました。
1. 子どもの専門家に相談する
2. 子育ての考え方を共有する
3. 事実を伝え、対策を話し合う
1. 専門家だからこそ、困ったときは相談する
保護者と関わる中で忘れてはいけないことは、“保護者は、我が子を最も良く理解しているのは保護者だと思っているであろうという視点”です。それは、保育時間が長いお子さんの保護者も同様です。
もし保育士が、特定のお子さんの接し方で困っている時は、保育士同士で相談することも大切ですが、特定のお子さんの保護者に家での接し方を聞いてみるという方法があります。
そうは言っても、「保育の専門家なのだから、そんなことを聞くと頼りないと思われてしまうのでは…」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし保育士も人間なので、上手く汲み取って関われるお子さんもいれば、どう接すればいいか悩むお子さんもいて当然なのです。大切なことは、“専門家なのに困っている”から抜け出し、“専門家だからこそ、積極的にヒントを得ていく力”をつけることです。
保護者は、我が子が生まれてから色々な試行錯誤を重ねて過ごしています。保護者だからこそ見つけ出した上手くいくテクニックがあるかもしれません。とても心強い存在です。
もし保護者も困っている場合は、保育士の声かけがきっかけとなり相談がしやすくなるかもしれません。保護者の立場に立って考えてみると“困ったときに一緒に考えてくれる保育士”ほど、安心して我が子を預けられることはないでしょう。
2. 保護者に何を伝えたいのか整理する
では、具体的にどのように保護者に声をかければ良いのでしょうか?
「保護者への相談の仕方について」さらに考えてみましょう。
保育士の先生から、「保護者と話をしたいけれど、なんか避けられている」という話を聞きました。詳しくお伺いすると、集団活動の中で上手く適応できていないお子さんなので、保護者が来る度に状況報告をしていたそうです。
一方、保護者の意見もお伺いしたところ「毎回子どもの問題点を指摘されるので聞きたくない、怖い」ということでした。
この話を客観的に読んでいらっしゃる方は気づかれたかもしれませんが、保育士と保護者の意見にはズレがあります。それは、保育士の「状況報告をした」と、保護者の「問題点を指摘される」の部分です。
保育士は子どもを預かっている以上、必要なことは伝えていかなければいけません。
しかし保護者からすると、子どものことは保護者の評価にように聞こえる、もしくはそれ以上に心が痛いと感じるものです。
それでは、どのように伝えることで、保育士と保護者の信頼関係を築けるのでしょうか?
例えば、保育士から保護者に「今日絵本の読み聞かせがあったのですが、○○ちゃんは教室を走り回ったり、先生が本を読んでいる時にページをめくりにきたりしました」と伝えたとします。
これは、保育士としては状況報告として伝えています。しかし、保護者は保育士が困ったから保護者に話したのだろうと思います。
そして保護者は、謝る、拒否的な態度を示す、子どもに注意する、子どもを擁護する等の対応をとると思います。このようなやりとりが毎日のように続くと、保護者と保育士の距離が離れてしまいます。
先ほどの例について、保育士は保護者とどのような話がしたかったのでしょうか?
状況報告をする時は、保育士がどのような目的で保護者に話すかを整理してから声をかけることが大切です。
例えば、
① 本当に伝えたいこと:より良い対応をするために、家庭での関わり方を知りたい
聞き方:「家でのご様子はいかがですか?もし、家でうまくいく方法があれば教えてもらえませんか?」
② 本当に伝えたい事:専門的な意見を伝え、保護者に協力してもらいたい
聞き方:「これからお話を聞く機会が増えるので、イスに座って話を聞く練習をしていきましょう。おうちでもイスに座っている時にたくさん褒めてあげてください」
このように「保育園・保育士が困っている」視点ではなく、いかに「子どもに安心して過ごしてもらうためにどうしたらよいのか」の視点を強調して保護者に伝えられるかがポイントになります。
保育士も人間なので、“状況報告”を目標にすると、保護者に声をかけにくくなりますが、“子どものために保護者に相談する”ことを目標とすれば少しは声をかけやすくなると思います。
そして、忘れてはいけないことは、保護者に子どもが頑張っていることも伝えることです。
「最近イスに座っている時間が長くなってきました。まだ、気になると立ち上がって次のページをめくってしまいますが、○○ちゃんなりに十分頑張っていると思います。『お椅子に座って上手にお話聞くの頑張ったね』と褒めてあげてくださいね」というように、親が子どもを褒めるポイントを伝えてください。
もし保護者が保育士に協力的でない場合は、保護者が何に不安を感じているのかを聞いて、保護者のペースでサポートできるように保護者の力を信じてみましょう。
大切なことは、一時的にサポートをすることではなく、持続的にサポートできる環境を整えることです。そのために、1年でどうにかしようとせず、保育園から社会人になるまでの長い目で子どもが幸せに過ごしていけるように援助していきましょう。
3. 保護者のアセスメントをする
最後に、保護者とより良い関係を築くために筆者が大切にしていることをお伝えします。それは、子どもをサポートするために保護者のアセスメントもすることです。アセスメントとは、1つの視点ではなく様々な視点から状況を把握し客観的に判断することです。
例えば、“毎回お迎えにくる度に子どもを怒鳴っている母親”という1つの視点だけで判断してしまうと、適切な声かけができなくなります。実際には、“怒鳴る”という行動1つでも、保護者がそのような態度をとらなければならない理由がいくつも考えられ、その理由によって保育士の関わり方も変わってくると思います。
保護者の態度の背景にある想いを知るためには、保護者の現状を把握する必要があります。
以下に、筆者が保護者の味方でいるために聞いていることをまとめてみました。
1)どんな子に育ってほしいのか
聞き方:「どんな子に育ってほしいですか?」
目的:保護者の子育ての目標が共有できることで、何か困った時も同じゴールにむけて話ができます
上記の例のようにいつも怒っているお母さんの、お子さんへの思いが「人に迷惑をかけない」だとすると、園にお迎えに行き、子どもがゆっくり準備をして保育士に迷惑をかけていると思っているかもしれません。そうであれば、保育士からお母さんに「今一人で準備をする練習をしています。いつも忘れ物がないか確認してくれるので助かっています」など、お母さんの思いに寄り沿ったフィードバックができます。
2)子どものかかわりで困っていること
聞き方:「お子さんとの関わりで何か困っていることはありませんか?」
目的:保護者と保育士が協力して、一貫した態度をとることができる
保護者が子育てのどんなことに困っているかを知っておくことは保育士と保護者が協力して子どもの成長を見守るために不可欠な情報です。
園生活では、体の発達、身辺自立、コミュニケーションなど著しい成長がある分、個人差があります。その中で、保育士が懸念していることと保護者が懸念していることが一致しているのかは常にアンテナを張っておくと、保護者も安心して子どもを預けることができます。
3)子育ての話を誰にしているか
聞き方:「お母さん(お父さん)、子育てについて誰かに相談できていますか?」
4)1人になれる時間はどれくらいあるか
聞き方:「お父さん(お母さん)1人で好きなことできる時間ってどれくらいありますか?」
5)ストレスの発散方法
聞き方:「ストレスが溜まった時、どうしていますか?」
3)~5)目的:ご両親の状況を把握し、適切な支援を提供できる
子育ての相談を誰かにできているか、自分の時間がどれくらいもてているか、ストレスの発散ができているかどうかは親の精神状態に影響します。1人で抱えこんでいる人は、子どもにイライラしたり不安が強まったりします。また、子育てについて両親の考えが違う場合もあるでしょう。
これらの情報を把握しておくことによって、保育士が必要だと思った時に、園に所属している心理士や市区町村、関係機関の必要な支援を保護者に紹介することができます。
いつも怒っている母親も今できる限界の中で必死に子育てしていると思うと、母親が少しでも保育士に頼れるようにどのようにサポートしていけばいいのかという視点で接することができるでしょう。
1年という長く短い時間の中で、子どもはすさまじい成長をします。この時期に、そばにいてくれる保育士の存在は保護者にとって心強く、感謝の気持ちでいっぱいです。
保育士と保護者が一緒に子どもの成長を喜べる機会が増えることを願って。
最後までお読みくださりありがとうございました。