女性にとって妊娠・出産・産後の時期は、体も心も大きく変化し、不安定な気持ちになることがあります。さらに新型コロナウイルスの全国感染拡大により、家族や親しい友人たちと会えなくなったり、新しい生活様式を送るようになり、これまで以上に不安やストレスを感じている方も多いかもしれません。
そこで今回は妊娠期から産後にかけて、心身ともに健やかに暮らせるよう、ママ自身をケアする方法をお伝えしたいと思います。
1.産前産後の心身の変化について
2.ママ自身をケアする方法
① テレビやSNSなどの情報から離れよう
② 自分なりのリラックス方法を見つけよう
③ ぐっすり眠る時間を作ろう
④ パートナーと産後の家事分担について話し合おう
⑤ 地域の子育て支援サービスを上手に活用しよう
1.産前産後の心身の変化について
妊娠すると女性の体は大きく変化します。妊娠前は鶏卵ぐらいの大きさだった子宮は妊娠末期には長さ30~35cmまで大きくなり、乳房も3~4倍大きくなります。そして妊娠15週頃完成する胎盤からは、赤ちゃんの発育や妊娠維持のために必要な女性ホルモンが多く分泌されます。
しかし出産時に胎盤も娩出されると、女性ホルモンは一気に低下します。(一社)ドゥーラ協会代表理事である助産師の宗祥子先生は『まるでジェットコースターのように急降下する』と例えているほど、産前産後は女性ホルモンの分泌量が激しく変化し、一気にバランスが崩れます。
産後2~3日目くらいから精神的に不安定になることを『マタニティブルーズ』と言いますが、それは女性ホルモンの変化の影響だと言われています。
この時期は理由もなく涙もろくなったり、感情の起伏が激しくなったり、気分が沈みやすくなったりします。また、食欲が低下したり、逆に食べ過ぎてしまったり、集中力がなくなることもあります。
その上、赤ちゃんが泣き続けていたり、授乳が思うようにいかないと「私は母親失格なんじゃないか」「私がいけないんじゃないか」と思い詰めてしまう人も少なくありません。
しかし、マタニティブルーズは決して母親の気質の問題ではありません。
産後1ヶ月くらい経ち、ホルモンバランスが戻ってくれば、ほとんどの場合自然に落ち着いてきます。
2.ママ自身をケアする方法
出産後、子宮が妊娠前の大きさに戻るには6~8週間かかります。そのため、出産後2ヶ月間(産褥期)は体の回復のためにゆっくり養生することが必要です。
しかしこの時期に周囲の理解を得られず無理をしてしまうと、不安定な状態が長く続いてしまったり、産後うつ病を発症することもあります。
パートナーや家族の協力を得て、ママ自身のケアを行うことはとても大切です。
今回は妊娠期から産後にかけてママ自身をケアする方法を5つお伝えしたいと思います。
① テレビやSNSから離れよう
コロナに関する正しい知識や情報を得ることは大切ですが、ニュースやSNSを見てばかりいると、ますます不安が増してしまいます。不安感や恐怖心が大きくなりすぎている時には、テレビのニュースや情報番組、SNSを見る時間を減らしましょう。
「どうしても気になって、ずっと見てしまう」という時には、見る時間や番組を決めて「これだけ見る」と意識的に制限するとよいでしょう。
② 自分なりのリラックス方法を見つけよう
好きな音楽を聴いたり、アロマの香りを楽しんだり、お風呂にゆっくり浸かったり、気持ちがリラックスできることをしてみましょう。
妊娠期の場合、安定期や体調が良い時には散歩をすることをおすすめします。できればバックは持たず、鍵や携帯など最低限必要な物だけポケットに入れて出かけましょう。そして目的地を決めず、自分のペースでゆっくり歩いてみてください。体の筋肉が心地よく緩み始め、気持ちもほぐれていくでしょう。また、お産に向けての体づくりにもなります。
※お腹が張っている時や体調が悪い時、医師から安静にするよう言われている場合には医師の指示に従い、無理して行わないようにしてください。
※マスクを着用する、人ごみを避けるようにするなど、コロナ対策は行いましょう。
産後は育児中心の生活となり、「一人でゆっくり過ごせる時間なんてない」という方が多いかもしれません。
しかし育児で疲労が溜まりやすい時期だからこそ、家族に協力してもらい、たとえ短い時間でも好きなことをしたり、リラックスできる時間を意識的に作ってほしいと思います。
また、遠く離れた家族や友人たちと対面で会うことは叶わなくても、
“電話やオンラインを活用して、おしゃべりをする”
ということもストレス解消になります。会えない寂しさや育児の悩みなどを一人で抱え込まないようにしましょう。
③ ぐっすり眠る時間を作ろう
妊娠初期は吐き気や嘔吐、腰背部の痛みなどのために、妊娠後期は腹部の圧迫や頻尿などが原因で眠りにくくなります。また、産後は赤ちゃんの夜泣きや授乳のために8~9割のママが睡眠不足を訴えていると言われています。
「赤ちゃんがいるから、夜眠れないのは仕方がない」
と諦めてしまう人も多いのですが、睡眠不足の生活が長く続くと、体だけではなく心も疲弊し『産後うつ病を引き起こす要因にもなる』と、睡眠学を研究している秋田大学教授の清水徹男氏は述べています。
まずは赤ちゃんの睡眠覚醒リズムが早く確立するようにアプローチすることが大切ですが、「何をやっても、赤ちゃんが夜寝てくれない」という場合もあるかと思います。
そんな時にはパートナーとよく話し合い、夫婦の生活リズムを変えてみたり、育児を交代で行うなど、睡眠不足を解消できる方法を諦めずに模索してほしいと願っています。
ぐっすり眠る時間を確保することは心身の健康のためにとても大切なことです。
④ パートナーと産後の家事分担について話し合おう
妊娠前と同じように家事をしようと頑張りすぎると、できない時にイライラが募ったり、休む時間がなくなり疲れが溜まってしまうことがあります。
“家事を完璧にやろうとしない”
“家事は今できることだけやる”
と思うことも大事です。
また、妊娠中に産後の家事分担についてパートナーや家族と話し合っておくことをおすすめします。
“産褥期(産後2ヶ月間)は、ママは育児以外何もせず、養生する”
というのが理想ですが、現実的にはパートナーが全ての家事を負担することは難しいのではないでしょうか。
夫婦間で何ができて、何ができないのか。できない家事に関してはどうするのか。比較的余裕のある妊娠期のうちに話し合っておくとよいでしょう。
⑤ 地域の子育て支援サービスを上手に利用しよう
ママのリラックスタイムを作る。
ぐっすり眠れる時間を作る。
家事を分担する。
そのためにはパートナーの協力が不可欠となります。
しかし、パートナーの負担が増えすぎてしまった場合やパートナーの協力を得ることが難しい場合には、産後ケア支援や子育て支援サービスを上手に利用しましょう。地域によって自治体が実施しているサービスや民間のサービスなど様々な種類があります。
サービスを利用することは決して恥ずかしいことではなく、市民としての当然の権利だと思います。ぜひ気軽に利用してみてください。
(C)2012一般社団法人ドゥーラ協会
産前・産後は体と心の変化が著しく、生活リズムも大きく変わる時期です。
ママも赤ちゃんも、家族みんなが笑顔で暮らせるよう、ママ自身のケアも大切に過ごしてください。
参考・引用文献
『新しくお母さんになるあなたにコロナウイルス(COVID-19)について知っておいて欲しいこと』 日本乳幼児精神保健学会 https://www.japan-aimh.com/
『母性看護学』小松美穂子・坂間伊津美著 放送大学
『産後うつ病の効果的なスクリーニングおよび支援方法についての文献的検討』
木村聡子・本庄美香・中尾幹子 大阪信愛女学院短期大学紀要
一般社団法人 ドゥーラ協会 https://www.doulajapan.com/