こんにちは。対人関係療法を専門にカウンセリングを行っています、島崎です。
コロナウイルスの影響で生活スタイルは大きく変わりましたね。
ずっと職場にいてなかなか帰って来られなかったお父さんがずっと家にいたり、友達と気軽に外で息抜きできなくなったり。環境の変化が大きい日々が続いています。
私たち人間は、変化に弱い生き物なので、こんなにも大きな変化が起きるとストレスを感じて当然です。
しかし、不安に向き合えない人や人に頼れない人は、その不安に向き合えず、自分を責めたり、人のせいにしたりすることで、どうにか自分を保とうとします。
「不安」には、大きく分けて、その時感じるしかない不安と解決できる不安の2種類があります。
その時感じるしかない不安は、感じて当然の不安です。例えば、受験生が志望校に合格するか不安を感じる、仕事でプレゼンが成功するか不安を感じる等があります。
これらは、不安の強弱はあったとしても誰もが感じる不安です。
解決できる不安は、対人関係の不安や物理的に解決可能な不安です。例えば、行きたくない飲み会でどう立ち振る舞えばいいか分からず不安を感じる、仕事が立て込んでいて期限に間に合うか不安に感じる等があります。
これらは、自分のキャパシティを考えて対策を練ったり、人に頼ったりして解決できる不安です。
「不安」は、生き物の本能として備わった大切な感情です。
不安になって当然の場面で、不安を感じないようにすると不安は大きくなります。言い方を変えれば、しっかりと感情に向き合うことによって不安は小さくなります。
今回のコラムでは、対人関係療法の視点から、不安な感情とどのように向き合っていくかお話したいと思います。
今回は、対人関係療法のエッセンスも含めて説明します。対人関係療法とは、“現在”に焦点を当て、重要な他者との関係を見つめ直すことにより、病気を治していく治療法です。ここの後にもでてくる、「重要な他者」の説明は、以前コラムで紹介した「誰も教えてくれない人間関係の処世術~前編~」に書いてありますので、そちらをご覧ください。
この記事を読んでおられる方の中で「私には重要な他者がいない」と思われた方、たくさんいらっしゃると思います。その方にもお役に立てる情報を書きましたので、最後までお付き合いいただければと思います。
1. 不安なことをリストアップする
2. 重要な他者をサポーティブな役割に戻す
3. 不安を味方につける
1.不安なことをリストアップする
私たちは、あまりにも環境が変化するとパニックになります。パニックになっている間は、何が何だか分からず正常な思考ができません。しかし、人間は時間が経つと適応するための方法を考え始めます。
①不安の整理をしてみましょう
何に不安を感じているかを書き出してみましょう。思いつく事をなんでも書いてください。頭の中で考えるよりも言葉にしたり文字にしたりすることで整理されます。
(例:お金がない、子育てが大変、学校がいつから始まるか分からない・・・・子どもが休みの間に昼夜逆転している、家族がイライラしていて怒ることが増えた 等)
家族で不安リスト会議を開いてみるのも面白いです。こんなことに不安を感じていたのかと知る機会につながります。また、1人でじっくり向き合うのもいいです。
②どちらの不安か分類しよう
書き出した不安がその時感じるしかない不安か解決できる不安のどちらか割り振ってみましょう。
例:感じるしかない不安
学校がいつから始まるか分からない
解決できる不安
お金がない、子育てが大変、子どもが休みの間に昼夜逆転している、家族がイライラしている
感じるしかない不安は、感じて当然の不安なので、不安な自分をとことん認めてあげることが大切です。重要な他者と「不安だよね」と言い合える環境があれば、それだけで状況は変わらなくても安心を得られます。どんな感情も、重要な他者に肯定されることで、人は前に進めるものです。重要な他者がいない人は、専門家(カウンセラー)に話してみてもいいと思います。
2.重要な他者をサポーティブな役割に戻す
解決できる不安は、重要な他者と話し合い、協力していきましょう。
今まで、家の中よりも外の環境に集中していた人は、このタイミングで重要な他者との関係を見つめ直してみるのもいいと思います。
例えば「お金の不安」は、家族で話し合い、使い方を見直してみることが出来ます。お金の不安を「辛い苦しいどうにかして」という視点で話すと上手くいかないかもしれませんが、「大切な家族と一緒に乗り越えたい」という思いを素直に伝えてみるのは意味があると思います。
また、育児の大変さや子どもの教育、家族とのコミュニケーションは、コロナウイルスによって起きてきた問題ではなく、家族であればどこかのタイミングで考えないといけない問題であるような気がします。今は、コロナウイルスという大きな問題に、家族で一緒に立ち向かっていくと考えることができるので、家族の中で敵を作らずに協力が出来ます。
話し合いの時に大切なことは、事前に自分が1番何を分かってほしいかを考えておくことです。そうすると、相手を責める言葉よりも「本当はすごく不安だった。気持ちを分かってくれるとほっとする」、「大変な状況だけど、家族で乗り越えたい」というような次につながる話し合いがしやすくなります。家族も、責められたり、責任をとらされたりする話し合いでは、不安や不快な感情を抱きやすく積極的に話に参加しづらいですが、「頼られている」、「一緒に協力する」と感じられれば、意見を聞きやすくなると思います。
3.不安を味方につける
不安な感情はネガティブに捉えられることが多いですが、生きていくために必要な感情です。適切なタイミングで自分を守る感情が働いていることは誇るべき大切なことです。
不安で仕方ない毎日の中で出来ることはとてもシンプルです。不安な気持ちを受け止めながら、出来るだけいつもと同じ日常を過ごしてください。私たちはどんな人もどんな時も今しか生きられないのです。それは、これからどんな大きな環境の変化があっても同じです。
コロナウイルスで出来ないことが多くなっても、家の中の日常は変わりません。今まで通り、服を着替えて、メイクやヘアセットをする、家族やご近所さんに「おはよう」と挨拶をする、お風呂にゆっくり浸かる、みんなでテレビを見る、好きな音楽を聴く。特別なことをしようとするよりも、いつもしていたことを思い出し繰り返すほうが安心して過ごせると思います。
不安な中でいつも通りの生活ができるというのは、自分をコントロールできているということになります。この経験は、今後また生活スタイルが変わりそうな時に、なんとかやっていけるだろうと自分を支える糧になると思います。
コロナウイルスのせいで、当たり前だった生活が一変しました。コロナウイルスによって変わってしまったものや失ったものがたくさんあります。しかし、コロナウイルスがあったからこそ得られるものがあるのも事実です。
コロナウイルスが与えたこの時間が、私たちにとって本当に大切なことは何か見つめ直し、“今を生きる”ことに集中しようと意識できる機会になることを願っています。