筆者は産後ドゥーラとして様々なご家庭を訪問し、産後のサポートを行ってきましたが、10年前に比べると『家事や育児に参加したい』『実際に家事や育児を行っている』という男性は増えてきたように感じています。
しかし、その一方でパートナーが家事や育児を行ってくれず、悩んだり、つらい思いをしている女性たちと出会うこともあります。
『産後とくにつらかったことは?』というアンケート調査(雑誌「クーヨン」2022年2月号において)でも、『睡眠不足・夜泣き』に次いで『パートナーにまつわること(育児・家事への不参加・コミュニケーション不足など)』が2番目に多いという結果が出ています。
出産後の生活がどのように変化し、どのような準備をしておくとよいのかは、それぞれのご家庭によって異なります。
もしもパートナーの育児・家事不参加の不安がある方は、産前のうちにパートナーと一緒にぜひ『産後プランニング』を考えていただけたらと思います。
2.家事の分担
3.家事項目表の活用
4.家事の引き継ぎ
5.お互いを思いやり、尊重しよう
1.パートナーとの話し合いは妊娠期から!
産後の生活はどのように変化すると思われますか?
妊娠中は女性も男性も「産後の生活がどのように変わるのかイメージが湧かない」という方が多くいらっしゃいます。
一人目の場合には、赤ちゃんがいる生活がどのようになるのか。
二人目、三人目の場合には赤ちゃんの生活リズムについては知っていても、上のお子様の生活リズムとどのように折り合いをつけるか、中々想像がつきにくいかもしれません。
また、女性自身の体調が産後どれくらいで回復するのかも個人差があります。
出産したら、すぐに体が妊娠前に戻るわけではありません。
子宮が妊娠前の大きさに戻るには6~8週間かかり、出産にともなう体の負担は『全身骨折に等しい』とも言われています。
また、産前産後は女性ホルモンの分泌量が激しく変化し、一気にバランスが崩れます。
そのため、理由もなく涙もろくなったり、感情の起伏が激しくなったり、気分が沈みやすくなったりします。また、食欲が低下したり、逆に食べ過ぎてしまったり、集中力がなくなることもあります。
このような『マタニティーブルーズ』と呼ばれる症状は、女性の気質とは全く関係なく、ほとんどの場合ホルモンバランスが戻ってくる1か月以内には自然と落ち着いてきます。
しかしこの時期に周囲の理解を得られず無理をしてしまうと、不安定な状態が長く続いてしまったり、産後うつ病を発症することもあります。
また、睡眠不足が長く続いた結果、産後半年過ぎてから、急に体調を崩すケースもあります。
そのため、少なくとも産後2か月間(産褥期)は体の回復のためにゆっくり養生することが必要ですが、状況によっては半年以上かかる場合もあります。
つまり、女性一人で育児も家事も行うことは難しいということです。
この期間、家事を誰がどのようにするのか。赤ちゃんのお世話や上のお子様の園送迎や習い事、食事やお風呂などの育児をどのように分担するとよいのか。
産後の大変な状況になってからではなく、妊娠期のうちにパートナーとしっかり話し合うようにしましょう。
2.家事の分担
OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた国際比較データによると、日本の男性の『無償労働時間(家事・育児・買い物・家族のケアなど)』は世界の中で最も短く、41分しか行っていないそうです。
妊娠前から女性と同等に家事を行っていた男性の場合には、産後の家事負担が多少増えても上手に対処することができるようです。
しかし妊娠前はあまり家事を行っていなかった男性の場合、
「いきなり『家事をやって』と言われただけでは、何をどうやっていいかわからないよ」
というのが本音ではないでしょうか。
家事の分担を考える場合には、まず具体的に何を男性が担当するか決めることが大切です。
『男性自身がやりたいと思っていること』と『女性がパートナーにやってほしいと思っていること』がずれていると、
「やってほしいことは何もやってくれない」
と女性は不満を募らせ、
「俺は一生懸命やっているつもりなのに、怒られてばかり」
と男性も不満を募らせてしまう結果になりがちです。
お互いが気持ちよく、円滑に家事を行うためにも、お互いの意思にずれがないか確認し合いましょう。
3.家事項目表の活用
具体的に女性は何を求め、パートナーは何ができるのかを話し合うツールとして、下記のような家事項目表を活用するのも一つの方法です。
産後直後は『ママ』の欄を空白にできるのが理想ですが、『パパ』は何を担当するのか、『パパ』が担当できない家事については誰に頼むのか考えましょう。
【家事項目表】
担当 | 例) ママ | 例) パパ | |||
朝食の支度・調理 | |||||
朝食の食器洗い | |||||
ゴミ捨て | |||||
子ども(上の子)の保育園・幼稚園の送迎 | |||||
掃除(部屋) | |||||
(トイレ) | |||||
(お風呂) | |||||
布団干し | |||||
洗濯/洗濯干し | |||||
洗濯の取り込み/たたむ | |||||
アイロンかけ | |||||
昼食の支度・調理 | |||||
昼食の食器洗い | |||||
買い物 | |||||
子ども(上の子)の保育園・幼稚園の送迎(夕) | |||||
沐浴(赤ちゃん) | |||||
子ども(上の子)のお風呂 | |||||
夕食の支度・調理 | |||||
夕食の食器洗い | |||||
子ども(上の子)の歯磨き・寝かしつけ |
※その他ご家庭によって必要な家事項目がある場合には追記してください。
女性もパートナーも担当できない家事項目は、両親やご友人など協力してくれる人がいるかどうか確認しましょう。
もし家族内の協力が難しい場合には、無理をしてどちらかの負担を増やそうとするのではなく、地域の子育てサポートの利用を検討してみてください。
また、産後は計画通り進まないことも多く、産前に決めた通りパートナーが家事を行えないこともあります。
そんな時には、計画通り行わせようと相手を責めたり、二人だけで解決しようとすると、かえって産後女性のストレスを強めてしまうという研究結果があります。
パートナーの家事分担で悩んだ時には、自分一人で解決しようとするよりも、周囲に相談したり、頼った方が女性にとって精神的安定につながるのだと言います。
地域によって自治体が実地している産後ヘルパーや家事育児支援制度があったり、民間の子育て支援サービスなど様々な種類があります。
申込方法などはそれぞれ異なりますので、妊娠期のうちに調べておき、産後必要になった時すぐに利用できるように準備しておくと良いでしょう。
4.家事の引き継ぎ
パートナーが何を担当するか決めたら、次はどのような方法で行うとよいか『引き継ぎ』を行いましょう。
会社で新しい仕事を引き継ぐ時と同じように、今までやったことがない家事を産後初めて行う場合には、具体的なやり方を産前のうちに聞いておくことをお勧めします。
例えば食器洗いもご家庭によってやり方は様々です。
お皿と鍋類を同じスポンジで洗うご家庭もあれば、お皿と鍋類を別々のスポンジで洗うご家庭もあります。大人用の食器と子ども用の食器で分ける場合もあります。食洗器に入れる食器と手洗いをする食器を分けている方もいらっしゃいます。
このような家庭独自のルールを知った上で行うと、より満足度が高まるでしょう。
5.お互いを思いやり、尊重しよう
妊娠・出産を体験した後に母親となる女性と、身体的な変化がないまま父親になる男性とでは、意識の違いが生まれても当たり前です。
また、会社の仕事は『有償労働』、家事は『無償労働』と呼ばれていますが、
『有償労働時間』が長い男性と、『無償労働時間』が長い女性とでは生活リズムが合わないこともあるでしょう。
しかし、有償・無償の違いはあれど、どちらも生きていくために必要な労働です。
新しい家族を迎えた後も気持ちよく暮らしていくためには、お互いの立場の違いを認識し、尊重し合うことが何よりも大切です。
産後の女性は心身ともに不安定になることを踏まえて、男性は女性の話を否定せず、共感的に聴いてあげると良いでしょう。
特に、外出がままならなくなる産褥期は、社会から分断されてしまったように孤独に感じる女性が多く、
「産後唯一私が話せたのは夫だけだった。夫が帰宅すると私の話を『うん、うん』とずっと聴いてくれたことが嬉しかった」
という声をよく耳にします。
また、男性の方から積極的に家事や育児を行うようにしましょう。
たとえ行っている時間は短くても「一生懸命やってくれている」と感じられると、パートナーに対する信頼感と愛情は高まります。
女性もまた、パートナーのやり方が多少違ったり、上手にできていないと不満に感じても、やってくれたことを認め、感謝する気持ちを持つことが大切です。
特に慣れない家事を行っている場合には、最初から上手にできなくても仕方がないかもしれません。
「私がやった方が早い」
「私がやった方がきれい」
「具体的なやり方を教えたり、引き継ぐのが面倒くさい」
と手を出してしまうと、パートナーのやる気は失せてしまい、結果的に女性自身の負担が増えてしまいます。
パートナーが楽しく家事ができるように温かい目で見守れるとよいですね。
妊娠期のうちに『産後プランニング』を行うことで、産後も夫婦ともに安心して、無理なく暮らせることを願っています。
参考・引用文献
男女共同参画白書令和2年度版
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html
『クーヨン 産後夫婦の危機どう乗り越える?』2022年2月号 クレヨンハウス
『Effects of negative life events and coping styles on postnatal maternal bonding towards babies in Japanese community women』Kokubu,M.2019