本には、作者の想いや考え・価値観など多くのものが詰まっています。
本屋さんに本探しに行くと本の多さに驚いたり、何を選んでいいのか迷った経験がある人も多いのではないでしょうか。
児童文学にも作者の想いが込められています。大人になって改めて手に取ってみると、「こんな深い物語だったんだ」「大人になって読むと、響くな」と感じることもあるのではないでしょうか。
今日は、そんな児童文学の中から「モモ」の魅力を心理学の視点からひも解いていきたいと思います。
1:「モモ」知っていますか?
2:なぜモモが時間泥棒に勝てたのか!?
3:さいごに
1:「モモ」を知っていますか?
「モモ」を子どもの頃に読んだことがある人も多いのではないでしょうか。
私も子どもの頃に読んだ記憶があります。子どもなので100%内容が理解していなかったとは、思いますが、あらずじやポイントはよく覚えています。
こちらの絵本の表紙を見たことがある方もいるのではないでしょうか。
「モモ」は、1973年にミヒャエル・エンデによって書かれた児童文学です。1974年には、ドイツ児童文学賞を受賞し、1976年に日本語版で初版が刊行されました。日本でも根強い人気がある作品の1つとして現在も注目されています。
★☆あらすじ☆★
街の廃墟になった円形劇場に住む孤児のモモ。モモが街に住むようになってから、街には平穏な時間が流れていました。
街の大人達は、モモに相談をし、子ども達は、モモと一緒に空想遊びなどを楽しんでいました。モモと街の人達は、絆で結ばれ、かけがえのない存在となっていきました。
ある日、そんな平穏な街に「時間貯蔵銀行」から“灰色の男達(時間泥棒)”がどこからともなく現れ、街の人達に“時間の貯蓄”を提案するようになりました。“時間の貯蓄”とは、自分達の余裕の時間を貯蓄していき、充実させることと説明していくのですが、実際には“灰色の男達”がその人の貯蓄された時間を奪っていました。“灰色の男達”は、奪った時間を使い生きているのですが、そんなことを知らない街の人達は、“灰色の男達”の言葉を信じ“時間の貯蓄”をしていきます。
いつの間にか、平穏な時間が流れていた街は、余裕がない人達で溢れていきました。
街の変化に気が付き、危機感を感じていくモモ。モモは、街の人達にこの異変を伝え、目を覚ませようとしますが、それを邪魔する“灰色の男達”。“灰色の男達”は、モモにも時間の貯蓄を勧めますが、思うようにいきません。
モモは、“灰色の男達”が手を出せない理由がありました。その理由と、モモを助けた時間を管理しているマイスター・ホラの教えが加わり、モモは“灰色の男達”を倒し、街の人達の“時間”を取り戻すことができました。
物語を簡単にまとめたのですが・・・・
「なんでモモか勝てたの?」「なんでモモはみんなに慕われていたの?」など色色な疑問が浮かんだ方もいるのではないでしょうか。
「モモ」の中には、多くのメッセージが仕掛けとして隠れています。
それらを含め次の章から、見ていきたいと思います。
2:なぜモモが時間泥棒に勝てたのか!?
なぜ街の人達が誰も気が付かなかった“灰色の男達”の正体に気が付き、惑わされることなく時間泥棒に勝つことが出来たのか…
2つのキーワードから見ていきましょう。
キーワード1★時間の価値を知っていた事
ひとつめのキーワードは、「時間の価値を知っていた」という事です。
時間を上手に使うということは、節約することだけではなく、楽しむこと、感じることだとモモはすでに気が付いていました。
そのため、“灰色の男達”はモモに時間の貯蔵を勧めても上手くいかず、逆に不利になっていってしまいました。
モモが時間の価値を知っていることは、“灰色の男達”に追われる時に時間を管理しているマイスター・ホラーに助けられた理由にも繋がります。
時間を操ることが出来るマイスター・ホラーがモモを自分の場所に招いたのは、モモが時間の価値を知っている人間=安全・信頼できると判断したからではないでしょうか。
マイスター・ホラーは、時間の価値について次のように物語の中で話しています。
☆人間はひとりひとりがそれぞれ自分の時間を持っている。そしてこの時間は、本当に自分の物である間だけ、生きた時間でいられるんだよ。
(「モモ」12章より引用)
とても時間の使い方を考えさせられるメッセージですね。
どれくらいの人が、自分の時間を感じて生きているのでしょうか…そんなことを問いかけるメッセージでもあります。
☆人間は自分の時間をどうするかは、自分で決めなくてはならないからだよ。だから時間を盗まれないように守ることだって自分でやらなくてはいけない。
(「モモ」12章より引用)
人生は、自己選択・決定の連続。
カウンセリングや、保護者支援など、誰かを支援する時にも“自己決定の尊重”は、大切なキーワードです。物語は、マイスター・ホラーを通して“その人の人生は、その人が主人公”という重要な生き方のヒントを伝えているのではないでしょうか。
キーワード2★アクティブラーニング・アクティブライフ
時間泥棒に勝てたもう一つの理由は…
モモは、「多くの選択肢から、自分で選択し、行動できる人間だった」という事です。
物語の中で、モモは色々な人と関わる中で、相手に何かを押しつけたり、押し付けられることは好みませんでした。多くの意見を聞きながら、最後は自分で考え、自分で選択するという行動を取っているのが印象的です。
モモと子どもの遊び方を例に挙げると・・・
☆自分達の内側から生まれる興味関心を大切にし→遊びを展開していく
という姿が見られます。
モモが大人の相談にのる時も…
☆相手の話を聞き→選択肢を増やす対応→相手が選んだ答えに対し受け止める
という姿が見られます。
この主体的な行動は、人の問題解決の力も育てる重要なものです。
乳幼児教育でも、今「アクティブラーニング」が、子どもの問題解決力を高めていく上で、重要だと考えられています。
アクティブラーニングとは、アクティブ=主体的・ラーニング=学びと分解でき、“主体的な学び”と言えます。
まさに、モモの行動スタイルは、アクティブラーニングに繋がるものだといえるでしょう。
物語の中で、灰色の男達に支配され、モモと遊ぶことを禁止された子ども達の様子について、書かれている部分があります。
☆こういう所で何か自分で遊びを工夫することなど、もちろん許されるはずがありません。遊びを決めるのは監督の大人で、しかもその遊びときたら、何か役に立つことを覚えさせるための物ばかりです。こうして子ども達は、他のあることを忘れてゆきました。他のあること、つまりそれは、楽しいと思うこと、夢中になること、夢見ることです。
(「モモ」13章より引用)
この部分は、今まで話してきたアクティブラーニングの真逆の状態です。
アクティブ(主体的)な遊びや生き方の価値をとても感じる部分でもあります。
そして、大人に「子どもの遊びについてどう考えていますか?子どもから見える世界を大切にしていますか?」と問いかけているようにも感じます。
子どもの世界と大人の世界は、違います。大人の想いだけで、子どもの世界を作り上げることは、時に子どもの主体性を下げてしまうことにも繋がることを忘れてはいけないのではないでしょうか。私達も“他のあること”を大切することで、子どもの可能性や問題解決力が広がっていきます。
ついつい「こういう遊びで、こういう力を付けたい」と大人は期待してしまいやすいですが、“何を使って、どう遊ぶのか、何が面白いのかなど、遊びの価値を決めるのは子ども自身”だという事を改めて大切にしてみるのはどうでしょうか。
遊びの価値だけでなく、“物事の価値も、最終的には他人が決めるのではなく、自分で決める”ものといえるでしょう。
3:さいごに
児童文学「モモ」をひも解くと、随所に大人も大切にしたいメッセージが隠されています。
今回は、「なぜモモが“灰色の男達”に勝てたのか?」という所に焦点を絞ってみていきましたが、まだまだ「モモ」の文章には、私達に響く言葉が多くあります。
次回は、モモ自身の魅力の1つ!モモのカウンセリングスキルについてご紹介していきたいと思います。素晴らしいカウンセリングスキルを持っているモモから、聞き上手になるスキルを教えてもらいましょう!
・モモ ミヒャエル・エンデ作 大島かおり翻訳 岩波書店