赤ちゃんはなぜ抱っこが大好きなの? その2  ~赤ちゃんとの“抱っこの日々”を笑顔で過ごすために~

前回の『赤ちゃんはなぜ抱っこが大好きなの? その1』では、抱っこが赤ちゃんの成長にとっても、ママやパパが親として成長する上でも大切なものであることをお話ししました。

とはいえ、毎日長時間抱っこをし続けることで、腕や手首を痛めてしまう方や、やりたいことができずにつらい思いをしている方も少なくないのではないでしょうか。

そこで今回は、手首を痛めない“楽な抱っこの方法”やお布団に寝かせても泣かずに寝てくれる工夫についてお話ししたいと思います。

 

目次

1:楽な抱っこの方法

2:おひなまき(おくるみ)について

3:赤ちゃんとの“抱っこの日々”を笑顔で過ごすために…

 

1:楽な抱っこの仕方

 

みなさんは赤ちゃんを抱っこする時、右腕と左腕のどちらでされることが多いですか?

1960代~1970年代、心理学の世界では『抱っこを左右どちら側の腕でする方が多いのか?』という研究が多くなされたそうです。その結果、女性は左側に抱くことが多いが、男性はほとんどこの傾向が見られなかったと言います。

 

 

その理由として、『左側の方が心音が聞こえやすく、赤ちゃんが落ち着きやすいからではないか』という説や、『赤ちゃんの頭は右側を向いていることが多いからではないか』という説、『単に利き腕の右手が自由になるためではないか』など様々な議論が飛び交ったそうです。

筆者が産後サポートをさせていただく中で出会った母子の様子を見ていますと、『利き腕で何かを作業するために、いつも利き腕と反対の腕で抱っこしていることが多い』と仰っている方が多い印象があります。

そのため、どうしても無意識のうちに同じ腕ばかりで抱っこをしてしまい、その結果、体の筋肉の左右差が生じ、肩こりや腰痛など体の不調を感じるようになってしまうようです。

 

もし抱っこによる肩こりを感じた場合には、自分はどのような“抱っこの癖”があるのか振り返ってみてください。

抱っこしやすい方で抱きたいと思うでしょうが、できればどちらか一方の腕だけではなく、抱っこを左腕右腕交互に行うように意識してみてはいかがでしょうか。

 

 

また、『抱っこのしすぎで、手首が腱鞘炎になってしまった』という声もよく聞きます。その場合は、おそらく赤ちゃんの体(首やお尻)を「手」で持っていることが多いのではないでしょうか。

「抱っこ」は「手」ではなく、「腕」で支えると手首を傷めずにすみます。

 

また、両腕で包み込むように抱っこをすることによって、赤ちゃんの体が自分の体と密着するため、より安定し、楽に抱っこができるようになります。さらに赤ちゃんが好む“背中がC の形、足がMの形のまるい姿勢”になるため、赤ちゃん自身も快適になります。

 

“腕で抱っこ”もつらい時には、家の中でもスリングを活用されることをお勧めします。スリングの中では赤ちゃんが自然と“まるい姿勢”になるため、『スリングに入れるとよく寝てくれる』と、寝かしつけに利用されている方も多いようです。また、自分の両手が空くようになるので、家事などを行う際にも自由に手を使うことができるようになります。

 

2:おひなまき(おくるみ)について

 

赤ちゃんがどんなに抱っこ好きだとしても、親自身も体を休ませたり、自分のための時間を作ることはとても大切なことです。

しかしお布団に寝かせると、背中にスイッチがあるかのようにすぐ泣いてしまう。そんな時には「おひなまき」をお勧めします。

“おくるみ”などの布を使って赤ちゃんを丸く包むことを「おひなまき」と言います。おくるみで全身を包んであげると、モロー反射などが起きにくくなるため、お布団に寝かせても泣かずに寝てくれる可能性が高まります。

 

助産師の渡部信子先生は『生後すぐから首がすわる3,4ヶ月頃までは、オムツを替える時やお風呂の時以外は、おひなまきのままずっと過ごしていても大丈夫』と述べています。

 

おひなまきのポイントは“腕はWの形、足はMの形”になるように包んであげることです。つまり、腕が伸びないように肘を曲げて、おくるみから手が出るようにし、足はあぐらを組んだように膝を曲げた状態でおくるみを結びます。そうすることで、赤ちゃんにとって快適な“まるい姿勢”を維持することができます。

また、陽だまり助産院の小田木佐織先生によると、“顎を引く”ようにすると、上手に巻きやすくなるそうです。

しかし、大泣きしながら足をばたつかせたり、膝をピンと伸ばしている時には無理して足を曲げようと頑張らないでください。そんな時はおくるみの布でふわりと体を包んであげながら抱っこをし、しばらく様子を見ましょう。落ち着いてきたら足の力がゆるみ、自然と足が曲がるようになると思います。そうしたら、足をおくるみで包んで、布を結んでみてください。

 

おくるみは日本だけでなく、「スワング」「スワドル」という名称などで世界各国で使われています。赤ちゃんをおくるみで包むという慣習は紀元前4000年までさかのぼり、古代ギリシャ人やローマ人から始められたとも言われています。

しかし「おひなまき」は体がまるくなるよう包むことを目的にしているのに対し、一部の国で行われている「スワング」は体や腕・足をまっすぐ伸ばしたままぐるぐる巻きにする方法がとられているようです。

 

小児整形外科医のニコラス・クラーク氏は、乳児の両足をきちんと揃え、まっすぐに伸ばしたまま布をしっかり巻いてしまうと、発育性股関節形成不全を引き起こす要因になると、英国の専門誌『小児期疾患アーカイブス(Archives of Disease chilDhood)』で発表しました。それ以降、日本では『スリングは股関節脱臼になる恐れがある』という話が流れ、スリングを使用する人たちが減ったと言います。

しかし渡部信子先生によると、スリングを使って股関節脱臼が起きたというケースはまだ全国で一人も報告されていないそうです。

手足をまっすぐ伸ばしてぐるぐる巻きにする「スワング」と、体をまるく包む日本の「おひなまき」は別物だと思ってよいでしょう。

スリングやおくるみを使う場合には足をMの形になるよう曲げ、正しいやり方で行ってください。そうすれば安心して活用していただけると思います。

 

 

3:赤ちゃんとの“抱っこの日々”を笑顔で過ごすために…

 

子どもが自分の足で立ち、歩けるようになるまで約1年半。

その期間、親は赤ちゃんを長い時間抱っこする日々が続きます。体調が悪い時や気持ちがふさいでいる時には、抱っこを苦痛と感じる時もあるでしょう。

このコラム『その1』では抱っこやスキンシップの大切さを伝えましたが、真面目でつい頑張りすぎてしまう人は、睡眠不足でつらい時や体調が悪い時にも赤ちゃんのために懸命に抱っこし続け、心身ともに疲労しきってしまうことがあります。

“知識”として、スキンシップが大切であることを知っておいていただきたいという願いはありますが、それはママとパパが心身ともに健康であればこそ…。

赤ちゃんにとって何よりも嬉しいのは、ママやパパが笑顔でいることだと思います。

『抱っこがしんどいな。つらいな』と思われた時は、“頑張りすぎているよ”というサインかもしれません。

そんな時は、何も気にせずぐっすり眠れる時間やゆっくり一人で過ごす時間を作るようにしてください。

 

“何も気にせず、ぐっすり眠る時間を作る”

“ゆっくり一人で過ごす時間を作る”

日中ママと赤ちゃんと二人だけで過ごすことが多い家庭では、『そんなことは無理よ』と思う方もいらっしゃるかもしれません。

確かに赤ちゃんと暮らす生活の中でそんな時間を作るためには、ご家族の協力が必要となります。

もしも今まで一人でつらい思いを抱えていた場合には、ご家族に自分の気持ちを打ち明けてみてはいかがでしょうか。

育児や家事の分担方法や生活リズムについて話し合うことで、赤ちゃんとの生活が楽になるかもしれません。

 

ご家族の協力が難しい場合には、全国の自治体で『産前・産後家庭支援ヘルパー』や『産前・産後家事・育児支援サービス』などの名称で、ママやパパを支援する活動がありますので、ぜひご利用ください。

料理や掃除、洗濯などの家事代行や沐浴などの育児サポートを利用することができ、サポートを受けている間ゆっくり休むことができます。

(※各自治体によって名称やサービス内容、利用期間などが異なりますので、お住まいの市区町村のホームページなどでご確認ください。)

 

また、助産所や医療機関などに宿泊し、体をゆっくり休ませながら、助産師などの専門スタッフから育児アドバイスを受けられる『産後ケア』や『産褥入院』などのサービスもあります。

 

『みんな誰にも頼らずに子育てしているのに、ヘルパーに頼むなんて…。』

という声をたまに耳にしますが、育児支援を受けることは決して恥ずかしいことではなく、市民としての当然の権利だと思っています。

 困った時やつらい時には、ぜひ市民としての当然の権利を上手に活用してくださいね。

人生100年時代と言われている今、長い人生の中で抱っこが必要なのはほんの短い期間…とも言えるかもしれません。子どもは成長し、いつか親の抱っこを必要としなくなる日がきます。

ママやパパが“赤ちゃんとの抱っこの日々”を笑顔で過ごせることを心から願っています。

 

引用・参考文献

『乳児の「抱っこ」に関する心理学的研究の展望と今後の課題』人間文化創成科学論叢第12巻 2009年 飯塚有紀

『赤ちゃんがすぐに泣きやみグッスリ寝てくれる本』すばる舎 渡部信子

陽だまり助産院 https://hidamari-jyosanin.com/

AFP BB NEWS 2013 『「おくるみ」は股関節に悪影響、英論文』

https://www.afpbb.com/articles/-/3002375